格差社会が生み出したダークヒーロー 上西雄大主演&監督作『西成ゴローの四億円』
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暴力と父性愛が渦巻く西成ゴロー
娘の手術費用を稼ぐためなら、ゴローは手段を選ばない。日向の依頼を受け、ゴローは危険人物の殺人を代行することになる。昼は日雇い労働者として汗を流し、夜は裏社会で血を流す。現代の『必殺仕事人』(テレビ朝日系)のようなクールなキャラクターだ。だが、ゴローは娘のためなら、自分の命も投げ出してかまわないという情の深さもある。米国の医療保険制度を問題にしたデンゼル・ワシントン主演の犯罪映画『ジョンQ-最後の決断-』(02)、同じくデンゼル・ワシントンが凄腕の元特殊工作員に扮した『イコライザー』(14)を組み合わせたような物語となっている。
西成を舞台に、社会派ドラマの要素を犯罪サスペンスとして描いた『西成ゴローの四億円』は、さらに関西ならではのコテコテのギャグも盛り込まれ、牛すじ煮込みのようなディープな味わいとなっている。別れた妻と娘を救うために裏社会で暗闘するゴローは、格差社会が生み出した魅力的なダークヒーローだ。
上西雄大の出世作となった『ひとくず』は、上西自身の実体験を投影した自主映画だった。上西自身が子どもの頃、母親が父親に殴られる姿を日常的に見せられていたという。父親は上西には手を上げなかったそうだが、目の前で母親が殴られるという体験はどれだけつらかっただろうか。今も家庭内暴力に苦しんでいる子どもたちを救いたい。『ひとくず』には、上西と彼が旗揚げした映像劇団「テンアンツ」のメンバーの切実な願いが込められていた。
母親への熱い想いが描かれた『ひとくず』だったが、『西成ゴローの四億円』は父親を主題にした、屈折したドラマとなっている。ゴローは自分の過去を悔い、家族を救うために汚れ仕事に手を染める。自分の命を投げ出すことも厭わない。上西雄大にとっての「理想の父親」像を描いているように感じる。ゴローという名前は、上西が子どもの頃に世話になった祖父の名前にあやかったそうだ。
すでに上西は父親を亡くしている。母親に暴力を振るっていた父親も、やはり心に傷を負っていたのだろうか。ゴローの中には、暴力と父性愛が渦巻いている。上西は映画の世界で自分が父親を演じることで、亡くなった父親と向き合っているかのようだ。上西の父親に対する捻れた感情が、ゴローをより危険な仕事へと駆り立てていく。現実と理想がかけ離れていればいるほど、ゴローは超人的な力を発揮することになる。
裏社会の仕事人となったゴローの前に、もうひとりの父親が立ちはだかる。「御大」と呼ばれる大物フィクサーの莫炉(奥田瑛二)である。莫炉の息子一家は、ゴローが関わった事件によって惨殺されていた。息子一家を殺された恨みを晴らすため、莫炉はゴローを抹殺しようとする。ゴローも4億円を稼ぐまでは、死ぬことはできない。よき父であるために、父親同士が銃を向け合うことになる。
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