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あのアーティストの知られざる魅力を探る TOMCの<ALT View>#7

Mr.Children『DISCOVERY』バンドの成熟と“もっと大きな”ミスチル像の発見

Mr.Children『DISCOVERY』バンドの成熟と“もっと大きな”ミスチル像の発見の画像1
Mr.Children『DISCOVERY』

 本連載では、ここ2回にわたって、1994年以降のMr.Children作品をサウンドやアレンジ面、制作プロセス等の観点から語ってきた。「Mr.Children編」第3回となる本稿では、『DISCOVERY』の知られざる魅力を、あの世界的なロックバンドの作品との関連性を軸に読み解いていきたい。

<第1回はコチラ>

<第2回はコチラ>

桜井のPro Tools導入と“時代のムード”

 Mr.Childrenが1996年から1997年にかけて行ったツアー『regress or progress ’96-’97 tour』は、アルバム『深海』(‘96)の全曲再現を含む、それまでの活動の集大成と呼べるものだった。桜井和寿の当時の公私の苦悩・混乱が多大に反映された『深海』をプログラム中盤で完全再現するという“エンターテインメント”を大観衆を前に披露し続けたのちに、バンドは以前から予定していた活動休止期間に突入する。

 ツアー終盤の97年3月、桜井は現代の音楽制作現場に欠かせないソフトウェア「Pro Tools」を自宅の制作環境に導入する。これにより、バンドとしてスタジオに入るより前の段階で、彼一人の手でほぼ完成形に近いデモ音源を仕上げることが容易となった。そして、自らの頬を叩く音をパーカッション的に導入するなど、サンプリングや波形編集といった桜井のアプローチが結実したのが、リズム隊以外のすべてを自宅で仕上げたという「ニシエヒガシエ」(‘98年2月)だ。

 ざらついたロックサウンドに独特の編集感覚が持ち込まれたスタイルは、桜井と同い年であるアメリカのソロ・ミュージシャン、ベック『オディレイ』(‘96)の作風にも通じるものがある。90年代後半は、ヒップホップ的なポスト・プロダクションの技法がロックをはじめ様々な音楽ジャンルに波及し始めた時期に当たる。生楽器のサウンドにデジタルな要素を注入していくスタイルは『BOLERO』(‘97)でも見られたものだが、そこから時代のムードを汲みつつ正統進化させたようなバランスの巧みさは特筆すべきだろう。

 ただ、「ニシエヒガシエ」のおよそ1年後にリリースされた『DISCOVERY』(99年2月)で彼らがこうした時代の先端を行くスタイルを推し進めていったかというと、決してそうではない。アルバムのリード曲となった「光の射す方へ」(‘99年1月)を筆頭に、複雑な楽曲構造とポストプロダクションを組み合わせた楽曲も一部に見られるものの、どちらかと言えばギターの主張の強さを打ち出した、キャリア随一のバンドサウンドを楽しめる作品としての印象が強いように思える。この点は、本作においてしばしば指摘される「とあるバンドからの影響」を考える上でも重要なポイントとなる。

レディオヘッドのどこに影響を受けたのか

 アルバム『DISCOVERY』制作当時、彼らは『OKコンピューター』(‘97年5月※日本先行)で一躍時代の寵児となったイギリスのバンド、レディオヘッドを愛聴していたことを公言している。中でも田原と鈴木は『OKコンピューター』を引っさげた1998年1月の来日公演を鑑賞し、そのサウンドデザインに大きな衝撃を受けたとされる。

 ファンにはご存知の通り、レディオヘッドは、緻密に作り込まれたスタジオ録音の一方、ライブではメンバー5人のサウンドを前面に押し出し、楽曲の魅力を数段ビルドアップさせた形で提示するライブバンドとしての側面もある。田原・鈴木の上記のライブ体験は“Mr.Childrenのレディオヘッド受容”に大きな影響を与えたと思われるが、この点については後述する。

 しばしば指摘されるように、『DISCOVERY』にはレディオヘッド『OKコンピューター』からの影響が随所に見られる。例えば1曲目「DISCOVERY」のイントロの譜割とリズムパターンは同じく『OKコンピューター』の1曲目「Airbag」を意識したと思われ、「Prism」の特徴的なドラムも「Let Down」を参照した上でのものだろう。

 ただ、ここで重要なのは、両者の相似性ではなく、こうした比較から浮かび上がる両バンドの“違い”だ。

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