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世界は映画を見ていれば大体わかる#31

『ハリー・ポッター』20年ぶりの同窓会がU-NEXT配信!ファンに魔法をかけるにくい演出

子役たちが徐々に大人へ…エマ・ワトソンの恋も?

 4作目『炎のゴブレット』では『フォー・ウェディング』で英国アカデミー賞に輝いたマイク・ニューウェルが監督になり、初の英国人監督の起用となる。

 三大魔法学校対抗試合が描かれ、スケール感の大きい4作品目にふさわしくニューウェルは大きな声を張り上げ、情熱的に演出に取り組む。

 ウィーズリー家の双子フレッドとジョージ(演じた役者、ジェームズとオリバーは実際の双子)がケンカをするシーンがあるが、2人が他愛無い小突き合いをしているだけなのでニューウェルは「そうじゃない!こうやるんだ!」とジェームズに飛び掛かり「演技指導」した結果、肋骨にヒビが入った。60過ぎの人間のやることではない。ニューウェルは自分のやったことを「ドジを踏んだ」と笑いにしたので場の雰囲気は重くならず、全員にこやかなままで撮影は続いた。

 友人や家族のような関係だった役者たちの間でも、変化が起きる。

 エマ・ワトソンはトム・フェルトンに恋心のようなものを抱いて「恋愛関係とはいえないけど、愛情はあったわ」と堂々答えてしまっていて驚く。日本で10代の共演役者同士がそんな関係だと(後にカップルになったわけでもなく)明かしたら、とんでもない騒ぎになるだろう。

 ハリーやロンたちの恋模様や思春期特有の不器用さが描かれ、ハリーの父親を殺したヴォルデモートの復活、友人セドリックの死を経て物語は大きく揺れ動く。映画を見続けている観客の少年少女たちも登場人物と同じように成長し、恋愛、人間関係に悩んでいただろう。ここまで来るともはや、単なる娯楽映画ではなくなっている。共感できる人生のようなものだ。

 5作目『不死鳥の騎士団』は再び英国人監督のデヴィット・イェーツが起用、以降のシリーズの監督を任され、物語は終盤に向けて疾走する。

 同一の監督を迎えて作品作りが固められる中、シリーズが破綻しかねないトラブルが起きていた。

 エマ・ワトソンの降板騒ぎだ。

 1作目から6年の月日が流れ、このシリーズが永遠に続くのかと恐れたワトソンは不安に陥り、孤独感に苛まれ誰にも相談できず「自分が降板したらどうなるだろうか?」と思い悩む。しかし作品に勇気づけられたという子供たちが世界中にいる作品を、自分の意思だけでは降板できない。そしてなにより10代の頃を撮影を通して過ごした役者たち、ラドクリフやグリントとの絆が降板を思いとどまらせたのだろう。物語の中で3人が支え合うように、実際にも彼らは支え合っていた。

 この番組を見ていると、3人の仲の良さが伝わってくる。ルパート・グリントも「キャラクターと自分の境目がわからなくなってくる」というほど入りこめた仕事だったのだろう。物語でロンとハーマイオニーは結ばれる。番組内、2人だけの収録場面でグリント曰く

「これは強力で、ずっと続く強い絆だ。互いの人生の一部だ」

 感極まった2人は握手し、ハグする。本当にキャラクターと自分の境目が分からなくなる瞬間だ。『ハリー・ポッター』シリーズという映画は、関わった人々に永遠に続く魔法をかけた作品ではなかろうか。

 番組には原作者のJ・K・ローリングは出演せず、アーカイヴ映像が使われているだけで「なぜだろう」と疑問だったが、番組を見てわかった。ローリングは魔法をかけた側なので、かけた魔法についてあれこれ振り返られても興ざめになるだけだ。

 最新映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は4月公開、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は7月に東京公演。ローリングの魔法と物語は永遠に続く。

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/02/24 11:48
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