『X年後の関係者たち』バンドブームは“最もコスパの悪いエンタメ”? イカ天の裏側
#大槻ケンヂ #バンド #イカ天 #X年後の関係者たち~あのムーブメントの舞台裏~
バンドは“この世で最もコスパの悪いエンタメ”か?
90年12月にイカ天は放送を終了した。バンドブームの終焉とは何か? 萩原が理由として挙げたのは「カラオケボックスの出現」だった。
「歌う奴がみんなカラオケボックスに行くようになったんだけど。それまで『歌いたい』と思ったら友だち騙してバンド組んで、楽器できない奴とかもジャンケンで負けた奴ベースにさせるとか、メンバーを募らなきゃいけなかったから。そういう人がバンド組まなくても欲求を満たせるようになっちゃったんで。だから、バンドいらなくなっちゃったんですよ」(萩原)
この指摘には膝を打った。確かに筆者もこの頃が人生で最もカラオケに行った時期だ。オケだけ流してパフォーマンスするアイドルイベントが増えたのも、バックバンド不要のコスパという要素がきっと関係しているのだろう。時期はずれるが、同じ意味合いで語れるのは「宅録」である。センスがあれば1人でパソコンで曲が作れる現代。岡崎体育は「FRIENDS」という曲で「バンドざまぁみろ!」と歌った。
「でも、バンドってそれを超えたところに良さがあって、考えもしなかった化学変化が誰かとやることによって生まれるでしょ。それがなくなっちゃってるんですよね、最近は。バンドは残ってほしいんだけど、いらなくなってきちゃったんですねぇ……」(萩原)
確かに、「バンドマジック」という言葉を聞かなくなって久しい。綾小路の指摘はもっと冷静だ。
「(バンドは)この世の中で最もコスパの悪いエンタメというか。『100万円ギャラもらえます』って言われても、例えば芸人さんはコンビで折半にすればいいとか、ヒップホップグループでもDJ連れて何とかなる。僕ら、それに機材を運ぶ人が必要になったり、セッティングする人が必要になったり、メンバーも多いのにさらにいろんなものが多いし。K-POPブームはバーッって行ってすぐに何もない場所でパフォーマンスできるっていうことも大きいですよね」(綾小路)
最後に、オーケンが挙げた理由は「話題がサッカーに変わる」であった。番組に呼ばれるとロックの話を聞かれることが多かったはずが、次第に93年開幕のJリーグへと話題が移っていく流れを彼は肌で感じていたという。
大槻 「『あっ、もう世の中のブームはバンドじゃないな。サッカーとかのほうに行ったんだな』と思ったのをよく覚えています」
石川 「人は何かのブームにとにかく乗りたいっていうのがあって、それがバンドだったり、次はJリーグだっていう。『それが来たらそれに乗る』っていう人が相当数いる」
カズ 「世の中の99%は“にわか”で回ってるわけなんで、その人たちがどれだけ乗っかってるかがブームですよね」
大槻 「(バンドブームは)タピオカみたいなもんでしたよ」
当時から、バンドブームは「一過性のもの」と言われていた。しかし、今も業界に残り活動しているミュージシャンは数多い。筋少も石川もXもユニコーンも人間椅子も、解散はしたがブルーハーツもである。ニューロティカは1月3日に武道館公演を終えたばかりだ。
大槻 「バンドブームは“芸能界”から“J-ROCK”にシフトするための橋渡しだったと思う。ある意味、実験台だったというかね。ロックというジャンルをどういう風にビジネスにできるか、そのビジネスモデルをどう作っていくかの実験台が必要だったと思うの。僕らはそれに、悪く言うと“利用”されたというか。でも、そんな風に言うと自虐的だから、逆に言うと“橋渡し役を僕らが作った”と思ってます。若い奴が『将来はバンドで食っていこうと思うんだ』って言って、親や先生が聞いて『そういう選択肢もあるね』って言えるようになったのは、僕らのようなブーム時代のバンドが獣道を作ったからだと思ってます」
カズ 「進路相談である少年が『俺、ロックシンガーになりたいんだ』って言ったら、バンドブームの前は『何言ってんだ……?』だったかもしれない。でも、今だったら『バンドで食える奴なんで一握りなんだ』って、一握りいる前提の話になりますよね。その違いはメチャクチャ大きいと思うんです」
オーケンの見解は、筋肉少女帯ボーカリストとしての謙遜と自負が含まれたいい話だと思う。もちろん、全員が筋少のようになれたわけじゃない。田舎に帰った元バンドマンは大勢いる。番組エンディングに流れたBGMは初代グランドイカ天キング・FLYING KIDSの「幸せであるように」だった。当時を知るスタッフからのメッセージを込めた選曲な気がしてならない。
「令和に『イカ天』のような番組は復活するだろうか?」なんて妄想をしたことがある。事実、ゴールデンボンバーやヤバイTシャツ屋さんからはどことなくイカ天っぽさを感じたものだ。でも、若者が表現する手段と場所はすでにたくさんある。だから、あの頃のようなバンドブームはきっともう訪れないだろう。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事