空気階段もぐらの「more good luck」芸人の“ちょっといい話”と嘘と皮肉
#テレビ日記
上田晋也「トーンで騙せないよ」
一方、嘘のエピソードをプレゼンして芸人の好感度を上げよう、との企画が放送されていたのが、16日の『くりぃむナンタラ』(テレビ朝日系)である。
好感度を上げる対象は、空気階段の鈴木もぐらだ。ギャンブルや借金など、バラエティ番組では“クズ芸人”のエピソードをいくつも披露してきたもぐら。番組の調べによると、鈴木もぐらを「好き」と答えたのが23.8%、「嫌い」と答えたのが76.2%だったという。そんな彼の好感度を上げるため、村上(マヂカルラブリー)、友近、有田哲平(くりぃむしちゅー)の3人が、もぐらについての“ちょっといい話”を30人のお客さんの前で語った。
で、その“ちょっといい話”は完全な嘘だ。たとえば、マヂラブ・村上は「芸名に隠された少年との約束」と題して語り始めた。大学生のころからギャンブルにハマっていたもぐら。常時お金がなかったため、公園のベンチで座っていることが多かった。その公園に、とある少年がやってくる。ギャンブルで負けてしょんぼりするもぐらを、少年は叱咤する。そんな日々が何日か続いた。
しかし、ある日を境に少年は公園に来なくなる。風のたよりで少年の入院を知ったもぐら。彼は少年を元気づけるため、病院にお見舞いに行った。今度はもぐらが少年を叱咤する番だ。その励ましに、少年は病気に立ち向かう気力をもらった。だが結局、少年は亡くなってしまう。
少年の家で線香をあげるもぐら。少年の母親は、そんなもぐらに少年が残した携帯電話を手渡した。そこには少年が照れくさくて送れなかった、もぐら宛てのメールが残っていた。「生きている間はしっかり前を向いて明るく生きる」。そんな少年の思いが書かれたメール。その末尾は、元気だったころの少年ともぐらが、よく公園で口にしていた言葉で締められていた。「もっと幸運なことがある」という意味で「more good luck」。そんな少年との約束を忘れないため、モア・グッド・ラックを略して「もぐら」を芸名にした――。
改めて言うと、以上のエピソードは真っ赤な嘘だ。そんな少年はいない。そんなメールはない。しかし、“少年”や“死”といったそれっぽい要素を含んだエピソードを聞いた観客は、「へー」と納得したような声をあげた。もちろん、どこまで本当の話だと思っていたかはわからないけど。
でも、この企画、芸人を取り巻く今の環境を皮肉っているようで、なんだか面白かった。人によって温度差はあるだろうけれど、しばしば私たちは芸人の“ちょっといい話”に感動しがちだ。巷に出回っている芸人の“ちょっといい話”には嘘も含まれているけれど、それがあたかも真実であるかのように広まっている。多少嘘っぽい話も、「本当であることを信じたい」と思って信じてしまうのだろう。感動したいから。『ノンフェイクション』では「嘘であることを信じたい」という気持ちになったのだけれど、嘘でも真実でも、信じたいものを信じてしまう、という点では同じかもしれない。
さて、もぐらの好感度アップ計画。最後に出てきたのは有田哲平だ。彼はこんな大嘘を語り始めた。かつてもぐらは、カフェで働いていた女性の家に転がり込んで生活していた。財布のなかからお金を抜いたりなど素行が悪いもぐら。彼女は水商売を始めた。しかし、その後ももぐらの問題行動は続いた。DVや、子どもの認知拒否、芸人仲間が集めたお金でギャンブル――。有田はもぐらの嘘のクズエピソードを言い連ねていく(念押しすると、全部嘘です)。
ただ、そんなクズエピソードが前半に語られるのも、芸人の”ちょっといい話”のいつものパターンだ。ここから後半にかけ、劇的なエピソードが挿入され、改心が語られることで、話はより感動的に盛り上がる。
が、改心後のもぐらの逸話として有田が語ったのは、「タクシー料金が980円のとき、千円札で払ってお釣りの20円を運転手にあげるようになった」といった小さなものばかり。それをシリアスな口調でそれっぽく語る有田。ワイプの上田晋也(くりぃむしちゅー)はすかさず「トーンで騙せないよ」とツッコミを入れた。
繰り返すが、以上の話は有田がでっち上げた嘘だ。が、この完全に皮肉っている感じ。気持ちよくなる定型的な感動エピソードを求める私たちを浮き彫りにしている感じ。こういうテレビ関係の記事を書いている私も、そんな感動エピソードを書くことに“手を染めて”いたりする。少し居心地の悪さを感じながら、嘘に笑う。これもまた、あまりないテレビの視聴体験だった。
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