空気階段もぐらの「more good luck」芸人の“ちょっといい話”と嘘と皮肉
#テレビ日記
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(1月16~22日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします
ハライチ・岩井「逆にね、嘘であってほしいって気持ちもね」
何が嘘なのかを見分けるのは難しい。だから、私たちはしばしば騙されまいと躍起になってしまう。躍起になるあまり、“真実”だと聞かされた情報に飛びついてしまうこともある。そしてその“真実”こそが、嘘だったりもする。
そんななかにあって、18日の『ノンフェイクション』(テレビ大阪)が面白かった。内容は、ドキュメンタリー番組と、フェイクドキュメンタリー番組と、クイズ番組がミックスしたようなものと言えるだろうか。番組内で複数のノンフィクション映像が流される。しかし、そのうち1本はフェイク、偽物だ。視聴者はそのフェイクがどれなのかを考えながら視聴する。スタジオでは、視聴者の代わりに岩井勇気(ハライチ)と高橋ユウが映像の真偽に頭を悩ませる。ノンフィクション×フェイクで「ノンフェイクション」だ。
カメラが向けられる題材は、毎回少しアングラなものが選ばれる。今回は、過去に逮捕経験がある人が取材されていた。監督は、YouTubeの「街録ch」で注目される三谷三四郎氏である。
番組では3人の街頭インタビュー映像が放送された。1人目は、未成年淫行で捕まった疋田さん(53歳・女性)。当時中学生の次男の親友に強姦されたが、「次男の親友を犯人にしてしまっていのか?」などと考えてしまい、真相を言えずに逮捕されてしまったという。2人目は、強盗未遂で捕まった大崎さん(35歳・男性)。たまたま飲食店で知り合った元ヤクザにオレオレ詐欺の共犯者に仕立て上げられ、退路をふさがれ、最終的に強盗未遂に手を染めるまで追い込まれてしまった。3人目は、5度逮捕されている内田さん(45歳・男性)。ネットオークションの中古車販売をしていたが、身に覚えのない詐欺や身分証の偽造などの容疑を次々とかけられてしまった。
3人はそれぞれ、上述の概要以上にエグみのある話をカメラに向かって語った。逮捕を契機に家族や婚約者との関係が変化してしまったことなども、感情を抑えたトーンで語られた。映像が終わり、画面はスタジオへ。3本の映像のうち、フェイクはどれか。スタジオの岩井と高橋は悩むが、答えを思案するなかで、岩井は次のようにコメントした。
「疋田さんが逆にね、嘘であってほしいって気持ちもね」
番組を見ていて、私も同じような感想を抱いた。この人の話は嘘であってほしい、と。だが、考えてみれば、そんな感想を抱くのも奇妙な話だ。というのも、見る者に「嘘を見破りましょう」と呼びかけて始まったこの番組。しかし、画面に収められた内容のシビアさゆえか、見ている側はいつの間にか「嘘であってほしい」と願うようになってしまう。嘘の軽さを見透かそうとする視線が、真実かもしれない語りの重さに向き合い始める。岩井のコメントを受け、高橋は「(疋田さんがフェイクだったら)すごい救われますよね」と語った。
フェイクを見破ろうと見ていたはずが、フェイクであってほしいと望んでしまう。騙されまいと思っていたはずなのに、騙しであってほしいと求めてしまう。嘘であることの救い。もちろんそれはそれで、ある種の心理的なバイアスの結果なのだろう。けれど、正確な情報の取得にしばしば追い立てられる時代にあって、なんだか不思議なテレビの視聴体験だった。
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