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妊婦の大量出血による死亡に新たな研究結果、人工赤血球の投与でも救命の可能性

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 出産中、分娩時の大量出血により死亡するケースは、妊婦の死亡原因の中でもっとも多い。ところが、産院のような小規模の施設では十分な輸血を常に準備しておくことが難しい。防衛医科大学、奈良県立医科大学、埼玉医科大学のチームは1月11日、人工赤血球製剤の応用し、分娩時の危機的な大量出血例を人工赤血球の投与でも救命できる可能性を、動物実験により明らかにしたと発表した。sakaipressrelease.pdf

 発表された実験の概要によると、まず、妊娠子宮から大量出血した出産の近いウサギに人工赤血球を投与したところ、赤血球輸血とほぼ同等の救命効果が得られた。

 人工赤血球はリポソーム粒子にヒトヘモグ ロビンを内包し、赤血球と同等の酸素運搬能がある。

 次に、より実際に近いモデルとして妊娠ウサギに帝王切開を行った後、子宮から大量に出血したとき、最初の30分間は代用血漿のみを投与し、続いて人工赤血球を投与した。代用血漿は体内を循環する血液が大量出血などで足りなくなった場合に、そのボリュームを補うために使うもので、酸素運搬能や止血能はない。

 その結果、6時間後でも10羽中8羽が生存することができ、全羽が生存した赤血球と血漿成分の輸血に近い効果が得られたという。研究成果は米国産婦人科学会誌(224巻4号)、学術雑誌 Scientific Reports(11巻1号)に掲載された。

 輸血治療は現行の医療に不可欠だが、離島・僻地における医療、夜間救急、緊急手術、大規模災害の発生時など、危機的出血にある傷病者に対し輸血が間に合わないときがある。

 このような状況の一助になりうる製剤として、長期間備蓄でき、血液型不一致や感染の心配をすることなく、いつでも必要時に投与できる、人工赤血球(ヘモグロビンベシクル, Hb-V)製剤の研究が進められている。

 出産では、分娩に関連した輸血を要するほどの大量出血は「産科危機的出血」と言われ、妊婦のおよそ250人から300人に1人の頻度で発生する。

 産科危機的出血は、急速に全身状態が悪化することがあり、迅速かつ十分量の赤血球製剤などの輸血が必要となる。

 しかし、日本では分娩の半分以上を取り扱う診療所等の、一次施設の8割近くで輸血製剤の事前準備ができず、突発的に産科危機的出血が生じた場合の対処が遅れてしまい、大きな病院への搬送中に心停止となってしまう患者が依然として存在する。

 防衛医科大学校病院産科婦人科では従来から室温で2年間有効な、保存性に優れた人工赤血球を開発しており、これを用いて分娩時の大量出血症例を救命できないか研究している。

 今後、臨床試験により安全性や有効性について詳細に時間をかけて検討する必要があるが、人工赤血球は保存性に優れ血液型に関係なく投与できる特長があり、緊急性の高い分娩時の大量出血に対しても、設備の整った大きな病院に搬送するまでの間の有用な治療手段になる可能性がある。

 今回の研究により、研究チームは、「分娩時の子宮からの大量出血に対して、人工赤血球が出血性ショックの回避と、救命のため血液製剤の投与に代替しうる可能性があることが分かった」としている。

 さらに、「分娩時の突発的な大量出血を含め、輸血用血液の調達が難しい様々な状況において人工赤血球の投与が効果を発揮することが期待される」とコメントしている。

 日本の産科・産院の多くは、急性期医療が行える総合病院のように輸血治療がすぐに行える体制にはない。また、出産に当たっても、周産期医療を行えるような専門病院ではない。

 出産時における医療体制・治療技術を向上させ、母子ともに無事に出産を終えることは、少子化が進む現状において、重要な対策のひとつとも言える。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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Twitter:@tohrusuzuki

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最終更新:2022/01/28 06:00
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