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Aマッソ『奥様ッソ!』フェイクドキュメンタリーとしての美点と欠点

『奥様ッソ!』の後に観たいフェイクドキュメンタリーの良作

 最後に、『奥様ッソ!』でフェイクドキュメンタリーの面白さを知った人に向けて、日本のフェイクドキュメンタリーの良作をいくつか紹介したい。

 フェイクドキュメンタリーはリアルタイムでの実況文化と相性が良い。『奥様ッソ!』が放送後ながらTwitterで話題となり注目を集めたことは象徴的だ。筆者は前出の『放送禁止』の放送当時、2ちゃんねるの実況スレが盛り上がるのを見ながら、番組を楽しんでいた記憶がある。また、毎夏ニコニコ生放送で放送される、いわゆる”ニコ生ホラー”にはフェイクドキュメンタリー風の作品が多く、カルト的人気を博している。画面上にツッコミのコメントが流れるニコニコ生放送とフェイクドキュメンタリーは強い親和性がある。

 この”ニコ生ホラー”、ひいてはこの枠で放送されるホラービデオ作品群が日本において意欲的なフェイクドキュメンタリーが育つ場として機能していると、筆者は考えている。

 海外劇映画では『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)や『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)のヒットが「フェイクドキュメンタリー×ホラー」の相性の良さを証明した。一方の日本では、ホラービデオ界隈を中心にフェイクドキュメンタリーが進化していった(フェイクドキュメンタリーの歴史は、先の『フェイクドキュメンタリーの教科書』に詳しい)。

 その立役者となったのは「おわかりいただけただろうか?」というワードでおなじみ、現・映画監督の中村義洋氏が初代監督を務めた人気ホラービデオ『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズ(1999年~)だろう。本シリーズでは、スタッフが怪奇現象の背景を追うドキュメンタリーパートが定番となっている。この、いわば「ほん呪フォーマット」とでもいうべき手法は、後続のホラービデオ作品に広く取り入れられていった。

 そして、「ほん呪フォーマット」をベースとしたさまざまなホラービデオが作られた結果、フェイクドキュメンタリーと別の要素をかけ合わせた作品性の強い良作が数々生み出されていく。

地上波やYouTubeにも良作が増えてきた

Aマッソ『奥様ッソ!』フェイクドキュメンタリーとしての美点と欠点の画像4
『ノンフェイクション』TVerより

 前出の『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズは、異色のオラオラ系ディレクターを主人公にして少年マンガやアニメ的な想像力をふんだんに盛り込み、”汚いまどマギ”や”汚いシュタゲ”とも呼ばれるような一大エンタメ作品となった(なお、本作がVTuberを含めたTRPG界隈で目下人気再燃中のクトゥルフ神話的世界観を導入しているのも興味深い)。

 また、寺内康太郎監督による『監死カメラ』シリーズ(2012年~)は、ぶっ飛んだキャラクターとギャグに振り切ったことでバカらしく笑える作品として、マニアの間でその地位を確立した(多くのホラー作品にも言えることだが、ポリコレ的には問題の多い作品であろうことは付言しておく)。さらに同監督が手がけたDVD作品『境界カメラ』シリーズ(2018~2019年)は、スタッフの失踪事件を主軸に、登場人物の嘘が明らかとなる過程で事態が二転三転していくミステリー・サスペンス要素が際立った快作である。

 このようにホラービデオ界隈で進化を続けていたフェイクドキュメンタリーだが、近年では今回の『奥様ッソ!』に限らず、さまざまなメディアで活況を見せ始めている。多種多様なドキュメンタリー監督を起用した『ノンフェイクション』(テレビ大阪/2019年、2022年)や、寺内監督とYouTubeチャンネル「ゾゾゾ」の皆口氏によるYouTubeドラマ『Q』(2021年~)などが、その例として挙げられる。また、2020年末にお笑いコンビ・ニューヨークのYouTubeチャンネルで公開され話題を呼んだ『ザ・エレクトリカルパレーズ』も、一種のフェイクドキュメンタリーだったと筆者は考えている。

 現在YouTuberとして人気を博すひろゆき氏の言葉をもじると、「うそはうそであると見抜ける人でないと、フェイクドキュメンタリーを楽しむのは難しい」かもしれない。それでも『奥様ッソ!』がネットで盛り上がりを見せたように、フェイクドキュメンタリーには多くの人を引きつける魅力がある。今後も、私たちをより楽しませてくれるフェイクドキュメンタリーの登場に期待したい。

須賀原みち(ライター)

フリーの編集・ライター。エンタメ系カルチャーを中心に、ビジネスその他、ジャンルを問わず執筆。また、ゲイ当事者であることから、LGBTQ関連記事の編集や執筆も行っている。

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すがわらみち

最終更新:2024/04/01 13:27
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