Aマッソ『奥様ッソ!』フェイクドキュメンタリーとしての美点と欠点
#Aマッソ
『放送禁止』の“設定”が巧みだったワケ
一方、『奥様マッソ!』のどうしても払拭できないフェイクドキュメンタリー的な欠点として、「なぜこの映像が撮影されたのか?」という疑問は残る。前述の通り、本作では裏設定を明示するようなカットやカメラワークが強調されている。むろん視聴者に気づいてもらうためだが、結果として、作品が掲げるストーリーと私たちが見る映像の間に齟齬が生じてしまっている。
その点、フェイクドキュメンタリーの代名詞的作品となった『放送禁止』(フジテレビ/2003年~)が巧みだったのは、「当時放送が禁じられていたある“お蔵入りテープ”を発掘し、その当事者たち等から了解を得て再編集したもの」(同番組ナレーションより)という設定を設けていたことだ。
この前提があることで、『放送禁止』では隠された裏設定にフォーカスした編集やカメラワークが許容される。しかし、『奥様ッソ!』はあくまでも一般的な家族密着バラエティの体(てい)を突き通す。そのため、どうしてもその編集やカメラワークは”確信犯”的なものとして画面に映し出される。
つまり、『奥様ッソ!』は映像の作りからして「一般的なバラエティとして作っています」という建前が崩れており、これがこの番組への没入感を少なからず薄める要因となってしまっているのだ。
なぜ裏設定を明示する構成になっていたのか
人気フェイクドキュメンタリー『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズ(2012年~)を手がける白石晃士監督の著書『フェイクドキュメンタリーの教科書』(誠文堂新光社)には次のような記述がある。
「フェイクドキュメンタリーにとって編集作業というのは、普通の劇映画よりも重要性の比率が高いです。(中略)その編集にも劇中と地続きのリアリティがないといけないんです。撮影アングルでも『なぜ、この位置からの表情を撮れているんだ?』と観ている側が思った時点で成立しなくなりますが、編集でも『なぜ、ここで繋いでいるんだ?』『なぜ、この続きをカットして見せないんだ?』『なぜ、ここの間をカットしているんだ?』などと疑問をもたせては観客が劇中世界に没頭できなくなります」
『奥様ッソ!』では、裏設定を明示するような編集・カメラワークを採用している理由はついぞ明かされない。そこだけはどうしても引っかかりを感じてしまった。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事