映画『浅草キッド』たけしが魂を込め劇団ひとりがリスペクトを注いだ芸人の在り方
#ビートたけし #浅草キッド #檜山豊
「芸人だよ、バカヤロー」のセリフにあふれるかっこよさ
深見はアドリブで良いから舞台に出ろとタケシに言う。そしてタケシは言われるがまま舞台上へ。
深見の言う通り動くだけで笑いが起きる。初舞台のタケシに対して拍手をする客に対し深見が
深見「おい、そこの。下手な拍手してくれんな」
客「は?」
深見「こんな下手な芝居で拍手したら、こいつがダメになっちまう」
客「おい、客だぞ。偉そうによ。何なんだよお前」
深見「……芸人だよ。バカヤロー!」
客「……」
そしてまたコントに戻り笑いを取っていく深見。
という何ともカッコいいシーンである。この「芸人だよ。バカヤロー」に対してタケシ青年も憧れのまなざしを向けるというカットがあるので、タケシ青年にもカッコよく映っているのだろう。
師匠は芸人というものへのプライド、タケシ青年は師匠へのリスペクトを感じ、どちらも芸人のカッコよさを違う形で表現しているように思えた。
まだまだ「芸人ってかっこいい」というシーンは山ほどある。
師匠である深見は左手にずっと包帯を巻いていた。ほかの弟子たちも含めてそれについては誰も触れずにいる中、気になったタケシ青年は先輩に、あの指はどうしたものか聞く。先輩曰くどうやら戦争の時、軍事工場でベルトに巻き込まれてしまった傷だと。お笑いとしては触れにくい話だ。その話を聞いた直後に師匠が楽屋にやってくる。その師匠に対し
タケシ「師匠」
深見「なんだよ」
タケシ「いま、高山さんからきいたんですけど、その左手……」
深見「これがどうした」
タケシ「腹減って自分で食っちゃったってほんとですか?」
深見「……」
タケシ「……」
深見「おらタコじゃね~んだバカヤロー。なんでてめぇで食わなきゃいけね~んだよ」
誰もが萎縮し、笑いに出来なかったことをタケシ青年はボケにし、それを師匠はツッコミで返したのだ。日常生活においても“芸人たる心構え”を求めた深見ならではである。このシーンは師匠がタケシに一目置いたという大事なシーンだが、同時に笑いが起きればなんでもありという芸人の共通認識を表しているように感じた。
カッコ良いシーンはあまりにも多いのでこれで最後にしよう。
深見は大の漫才嫌い。深見のもとにいる限り流行りの漫才をやることが出来なかった。笑いの為、漫才の為に師匠のもとを去ろうと決めたタケシ青年。そんな思いを師匠に報告しにいくシーン。
いつもどおりの楽屋。師匠が弟子たちと花札をしようと持ち掛けると、タケシ青年が神妙な面持ちでこう言った
タケシ「フランス座辞めます」
深見「……」
タケシ「辞めて外で勝負させてください」
深見「……あ?」
タケシ「……漫才やることにしたんです」
深見「……」
タケシ「前、ここにいたキヨシと一緒に漫才やることにしたんです……」
深見「何言ってんだこの野郎!」
タケシ「……」
深見「ちょっとばっかりコントが出来るようになったぐらいで外出てえだと!お前みたいななぁ、芸も中途半端な野郎が外で何出来んだバカヤロ!」
タケシ「……」
深見「しかも漫才だと!てめえ俺の下で何見てきやがったんだこのやろう。あんなものはなぁ芸でもなんでもねぇんだよ!二人並べてヨタ言ってるだけじゃねぇか!そんなもんで客から金取るってのかお前!」
タケシ「金とる客だって、ほとんど入ってないじゃないですか」
深見「……なんだとこのやろう」
タケシ「ここにいたんじゃテレビにも出れねぇし」
高山「お前散々世話になった師匠に対してそれはねぇだろう」
タケシ「だったらここで野垂れ死にゃあいいのかよぉ!」
高山「……えぇ?」
タケシ「裸見たさの客笑わして何になるんだよぉ!いくらここで爆笑さらったって何もなんねぇじゃねえかよ!」
高山「ど、どうしたんだよタケ~」
深見「……おい…ずいぶん笑わしてくれんじゃねえか、タケ……いつからそんな面白れぇ事言えるようになったんだよこの野郎」
タケシ「……師匠に鍛えてもらったんで」
深見「……」
やばい。このシーンは本当にやばい。特に最後のやり取りは痺れる。深見の「面白れぇ事」は本当に面白い事ではなく「ふざけたこと」の意味。それを本来の“面白い事”と捉えて返すあたりが粋である。芸人ならではの返し、芸人ならではのカッコよさ、芸人ならではの感動。何度見ても涙が止まらない。
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