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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.670

極上の韓国映画を思わせる犯罪ミステリー 佐藤二朗が二面性を見せる『さがす』

生きる価値を見い出せない、迷子の大人たち

極上の韓国映画を思わせる犯罪ミステリー 佐藤二朗が二面性を見せる『さがす』の画像2=
中学生の楓(伊東蒼)は父とのふたり暮らし。卓球場を再開することを願っていた

 少女探偵・楓がまず訪ねたのは、父親が働いていた解体工事の現場だった。「原田智はいませんか?」と楓が尋ねると、工事現場で「原田智」として働いていたのは赤の他人だった。爪を噛む仕草と独特な風貌が印象的なその若い男(清水尋也)は、指名手配犯とそっくり。楓も、我々観客もまったく訳が分からない。

 楓がパソコンで調べると、「原田智」になりすましていた指名手配犯は、「名無し」と呼ばれ、SNSで自殺願望のある者たちを募っては自殺幇助を繰り返していたことが分かる。天使のふりをして近づく、悪魔のような男だった。では、楓の父親はもうこの世にはいないのか?

「それは有料コンテンツだね」

 父の居場所を問い詰める楓に、そんな言葉を返し、立ち去る名無しだった。懸命に追いかける楓。大阪の商店街で、ド派手なカーチェイス……ならぬランニング&自転車チェイスが繰り広げられる。

 物語はこの後、指名手配犯の名無しの視点、蒸発してしまった父・原田智の視点へとスイッチし、物語の行方は二転三転することになる。複眼的視点によって映し出されるのは、閉塞感が漂う今の日本社会の実相だ。バブル経済崩壊後、失われた時代がいつまでも続く。どれだけ真面目に働いても、生活は苦しくなる一方だ。生きていても、楽しいことはひとつもない。死んだほうが、ずっと楽ではないか。生きる価値を見失ってしまった迷子の大人たちが、この国には溢れ返っている。

 名無しはそんな迷子の大人たちをSNS上で探し出しては、自分では死ねずにいる本人に代わって殺人代行をしている。代行した報酬として、幾ばくかの金銭を受け取る名無しだった。名無しにとっては「殺人」=有料コンテンツである。ムクドリ(森田望智)も名無しに「殺してほしい」と頼むが、思っていた以上に彼女は生命力があり、なかなか死なない。そのことから物語は意外な方向へと転がっていく。

 Netflixオリジナルドラマとして大ヒットした『全裸監督』『全裸監督2』でヒロインを演じた森田望智が、自殺願望を持つ女・ムクドリを怪演。生きた人間よりも、死んだ人間に欲情する名無しを演じたのは、『ミスミソウ』(18)の清水尋也。彼の屈折ぶり、変態性もすごくいい。楓役の伊東蒼は、『空白』(20)でも古田新太演じる横暴な父親を支える娘役を好演した。将来が楽しみな若手女優だ。

 そして何よりもこの物語を成立させているのは、主演の佐藤二朗だ。冴えない中年男を演じる彼の俳優としての懐の深さが、そのまま物語の奥行きにもなっている。憎めないダメ親父ぶりと娘には見せないダークサイドを併せ持つという二面性を、佐藤二朗から引き出した片山監督の演出手腕も見事だ。韓国映画に出演してもおかしくない太々しい面構えのキャストたちが、本作を味わい豊かなものにしている。

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