源頼朝が死刑から一転流刑になった背景――後白河法皇の“寵愛”のたまものだった?
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後白河法皇がどうしても頼朝の命を助けたかった理由
「頼朝の助命嘆願を行ったのは、後白河の同母姉・上西門院(じょうさいもんいん)という女性皇族だったのでは?」とする歴史学者もいます。上西門院は、少年時代から美しかったであろう頼朝をそば近くに置いていたとされます。特に怪しい意味ではないでしょうが、頼朝は上西門院の「寵童」だったのでした。
成人後の頼朝の容貌については、次のような証言があります。「 顔大きにして、長(たけ)ひくき」(『源平盛衰記』巻三十三) 。けっして「顔がデカくて身長は低い」わけではありません。 同書では「容貌花美(かび)にして景体優美(= 顔は花のように美しく、身体つきは優雅)」 という文が続けられているので、「顔大き~」の部分は「 カリスマ性がある顔、ほどよい身長の持ち主」 あたりに解釈するのがよさそうです。
ただし、上西門院は平家に対してそこまで強くものを言えるほどの権力者とはいえませんでした。上西門院の働きかけで頼朝が命拾いをしたとしたら、彼女の後ろに隠れている実力者が確実にいたはずです。それは後白河上皇だったのではないでしょうか。上西門院・後白河の姉弟はとても仲がよかったのです。姉の背後から糸を引き、頼朝を生かそうと画策していたのは後白河だったと筆者は見ています。
後白河自身も、他の「寵臣」たち――たとえば頼朝の父・義朝などの助命嘆願をそれは熱心に行ったようです。『平治物語』は「軍記物」、つまりフィクションではありますが、その中に「(源義朝らは)まろを頼みて参りたる者にて候、助けさせ給へ」という後白河の発言が登場します。もっとも、この嘆願は実子の二条天皇にすら拒絶されて、大ハジをかく結果に終わったのですが……。後白河の義朝(たち)への執着は、奇異と呼べるほどでした。
しかし結果的に、頼朝という、本来ならば絶対に殺しておくべき未来の“源氏の棟梁”となる男子の命だけは、なぜか助けられることになりました。おそらく後白河は、義朝の助命嘆願以上の熱心さで「頼朝を助けてやってくれ」と、ウラから平家側に訴えかけたのではないでしょうか。そして、その窓口となったのが姉の上西門院だったのでは……。平家がついに折れて、後白河の悲願を叶えてさしあげたのは、朝廷の“ドン”である彼に恩を売るためでしょう。
ではなぜ、そこまで後白河は頼朝にこだわったのか。その理由のひとつとしてはっきりしているのは、ドラマでも説明されるとおり、「謀略を愛していた」からでしょう。後白河は、源氏や平家という軍事貴族の勢力を巧みに利用し、互いに競わせていました。ですから、未来の“源氏の棟梁”たるべき頼朝というコマを残すことで(そして頼朝に恩を売ることで)平家一強の時代になることを止めたかったという実利的な側面があった可能性は否定できません。
しかし、それならば、(僧籍に入る予定だったとはいえ)源義経など、義朝の遺児たちのなかに助命された者は他にも何人か存在していたわけです。彼らの母親は頼朝の母親より身分が劣っており、当時は母親のステイタスが子の未来を大きく決めるものだったという事情はありますが、後白河が他の遺児ではなく、頼朝を生かすことにこだわった理由の説明はつきにくいと思われるのです。
また、頼朝の助命嘆願を表向きは上西門院のものとしたのは、後白河自身が、そこまで頼朝に執着している事実を表沙汰にしたくないという考えがあったからではないでしょうか。つまり、なるべくなら、秘密にしておきたい関係だった……とも考えられるのです。
後白河は、以前から頼朝に強い執着を抱いていた。そしてそれは、頼朝を寵愛していたということでは……というのが筆者の考える「仮説」です。平安時代末期は院政期とも呼ばれ、男色(なんしょく)の傾向が強い時代でもありましたからね。
ドラマの頼朝も、挙兵の意志があることを義時に伝える場面で、平家を打倒し、「法皇様をお支えし、この世をあるべき姿に戻す!」などと息巻いていたように、後白河に対し、頼朝もかなりの思い入れがあるようでした。
正直なところ、史実の後白河と頼朝は「(元)恋人」の関係ではないか、などと筆者は内心、思っていたりします。ただ、ドラマでこういう複雑怪奇な経緯、人間関係を現代人がすぐに理解できるように描くのは大変に煩雑なことですから、“マツケン”清盛に「忘れた」の一言でさっぱりと片付けてもらったのは、とてもよい演出だった気がしました。
今回の放送で筆者がもうひとつ気になったのは、以仁王(もちひとおう)を人気声優の木村昴さんが演じるという点ですが、こちらについては次回以降、詳しく触れられたらと思います。
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