『ハウス・オブ・グッチ』レディー・ガガの熱演が輝く御家騒動映画の魅力
#グッチ
名役者揃いの本作、たったひとつの難点は……
アダム・ドライバーもまた、初めこそ自分の道を信じていた、純粋で優しい青年を演じていた。特に序盤の、自分にアプローチしてくる女性にたじろぐウブな様、庶民的なアルバイトで同僚とキャッハウフフといちゃつく様はとんでもなく可愛らしい。同じくリドリー・スコット監督作『最後の決闘裁判』でアダム・ドライバーは女性を暴行する最低野郎に扮していたので、そのギャップにも驚けるのではないか。
そんな風に、レディー・ガガ扮するパトリツィアが初めこそ普通の女性だったように、アダム・ドライバーが体現しているのもまた普通の青年だった。優しく正しい道を歩んでいたはずの彼が、「どうしてこんなことになってしまったんだろう」という哀愁を漂わせ、抑えに抑えていた妻への憤りをやがて表に出してしまうことも、また哀しい。アダム・ドライバーは『スター・ウォーズ』シリーズのカイロ・レンというキャラクターでもそうだったように、怒りを溜め込むも、それだけでない愛憎入り乱れる複雑な感情を同居させる演技がとんでもなく上手い役者なのだと、改めて思い知らされた。
さらなる注目はジャレッド・レトだろう。頭頂部が禿げ上がっており、だらしがない体型、その情けなくも哀しいキャラクターは、映画本編を観ても「あれがジャレッド・レトってウソだろ!?」と信じられないほど。それもそのはず、彼へのヘアスタイリングおよび特殊メイクには、毎日約6時間もかかったのだという。他にもジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエック、アル・パチーノ、カミーユ・コッタン(同日1月14日公開の『スティルウォーター』にも出演)も記憶に鮮烈に残る役に扮している。
本作の難点を1つあげるのであれば、上映時間が159分と非常に長いことだろう。観終わってみれば、グッチ一族の大スキャンダルに至るまでの人間たちの悲喜劇を描くためには必要な尺であったとも思うのだが、全体的に作品のトーンが淡々としており、少々間延びした印象があることも否めない、というのも正直なところだ。
だが、豪華キャスト陣たちの熱演、当時の衣装や装飾の再現、何より事件に至るまでの複雑な人間の悲喜劇を「理解も共感できる」体験は、何にも変え難いものだ。ぜひ、映画館でじっくりと、御家騒動という一括りにはできないほどの、濃厚なドラマを堪能してほしい。
『ハウス・オブ・グッチ』 2022年1月14日(金)より全国公開
監督:リドリー・スコット
脚本:ベッキー・ジョンストン、ロベルト・ベンティベーニャ
原作:サラ・ゲイ・フォーデン『ハウス・オブ・グッチ 上・下』(実川元子訳、ハヤカワ文庫、2021年12月刊行予定)
製作:リドリー・スコット、ジャンニーナ・スコット、ケヴィン・J・ウォルシュ、マーク・ハッファム
出演:レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエックほか
原題:HOUSE OF GUCCI
北米公開日:2021年11月24日(水)
配給:東宝東和
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