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『ハウス・オブ・グッチ』レディー・ガガの熱演が輝く御家騒動映画の魅力

綴られるのは権力者の苦悩と、夫婦間の悲喜劇

『ハウス・オブ・グッチ』レディー・ガガの熱演が輝く御家騒動映画の魅力の画像2
C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 一方で、そのパトリツィアと結婚したマウリツィオにもまた同情してしまう。彼は初めこそ自身の意思で、グッチ一族に頼らずに弁護士を目指そうとしていた……はずだった。だが、彼の伯父はパトリツィアと自身の間に共通点を見出し、共に法律の勉強をやめてグッチの経営に関わるようマウリツィオに説得を試みてしまう。そのことが、服飾デザイナーを目指すも実力が到底追いついていない従兄弟との軋轢も生むことになり、マウリツィオも結局はグッチの権力を享受する人間へと変わってしまうのだ。

 一般庶民にとって、権力者の苦悩なんてものはどうでもいい、「それで悩むなんていいご身分ですね」と鼻で笑うようなものだろう。だが、『ハウス・オブ・グッチ』で描かれている人間味のある悩みや葛藤は、「その気持ち、わかるよ……!」としんみりと共感できるものだった。

 もっとわかりやすく下世話な言い方をすれば、本作で描かれているのは「夫を純粋に愛していたはずなのに、彼の権力の保持のための行動が、裏目に出まくってしまう妻」と「親が敷いたレールなんてまっぴらだと思っていたが、妻と伯父の説得のために結局はレールに戻って権力を享受し、しかも自分を愛してくれている妻や一族への不信感を募らせる夫」が織りなす、夫婦間の悲喜劇なのだ。

 実際に、劇中の運命の歯車の狂い方、その過程はもはや滑稽で、悲しいと同時に「笑ってしまう」域にさえ達している。まるで冗談のように憎しみが連鎖する御家騒動は「東映ヤクザもの」にも近い印象さえ覚えるほどだ。いわゆる「良い話」を期待する方にはおすすめできないが、「もう人間を信じることができなくなりそうな意地の悪い話」を期待する人は大満足できる内容だろう。

レディー・ガガとアダム・ドライバーの熱演が輝く理由

『ハウス・オブ・グッチ』レディー・ガガの熱演が輝く御家騒動映画の魅力の画像3
C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 本作のさらなる大きな魅力は、豪華キャスト陣の共演だろう。特に実質的に2人いる主人公、レディー・ガガとアダム・ドライバーの熱演は誰もが絶賛するのではないか。

 レディー・ガガは『アリー/スター誕生』(18)でも見せた演技の才能を本作でも存分に証明した。実際の彼女は言わずと知れたトップスターであり世界中から愛されているが、演じているその役はそれとは全くの反対、前述してきた通り「愛されていないことを恐れる」「自分に自信がない」女性なのだ。

 しかも彼女は20代から40代までのパトリツィアを演じており、その心境が年齢と共に次第に変化していくことも表現している。初めこそ本当に夫を愛していた、純粋無垢な女性に見えるが、次第にその権力を重視しすぎるという狂気に「飲み込まれていく」様が、その表情の変化から見て取れる。同時に、どれだけ年齢を重ね、夫への憎しみさえ生まれようとも、やはり根底には夫のために尽くそうとしたいじらしさや愛おしさも感じられる。もはや、レディー・ガガなくしてこの映画の魅力を語ることはできないだろう。

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