“無自覚な自主規制”進むテレビの在り方を問うドキュメント『テレビで会えない芸人』
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作品への向き合い方に違いがあった2人の監督
本作を企画した経緯を、四元良隆監督はこう語る。
四元「15年ほど前、鹿児島生まれの音楽家・吉俣良さんを取材した際に『鹿児島出身で、すごく面白い芸人がいるけど、テレビではやれないネタばかりなんだよ』と教えてもらったんです。それが松元ヒロさんでした。テレビ局に勤めている自分としては、すごく気になったわけです。実際にヒロさんに直接お会いしたのは2019年2月でした。鹿児島での公演はすごく面白かった。でも、面白い人にカメラを向けるのがテレビなのに、なぜテレビはヒロさんを映さないのか疑問に思ったんです。公演を終えたヒロさんとお酒を一緒に飲む機会があり、ヒロさんが上機嫌だったこともあり『カメラを向けてもいいですか』と尋ねたところ、『いいですよ』と快諾してもらいました。すぐに局の了解を取り付け、3月から取材を始めたんです。ヒロさんは本当に取材するとは思っていなかったみたいですね(笑)」
四元監督は1971年生まれ、牧祐樹監督は1983年生まれ。両監督はひと回り年齢が異なる。牧監督はそれまで地元の情報番組などを担当することが多く、『テレビで会えない芸人』は初めてのドキュメンタリー作品だった。取材当初、2人の間には作品への向き合い方に違いがあったという。
牧「四元から、東海テレビが制作した『ヤクザと憲法』などのドキュメンタリー作品を勧められて観たところ、『こんな題材もドキュメンタリーになるのか』という驚きがあり、いろんなドキュメンタリーをそれから観るようになったんです。そんな折に四元から『テレビに出ない芸人』を一緒に取材しようと誘われました。面白い企画だなとは思ったんですが、テレビに出ないというのが松元ヒロさんのポリシーなら、そのポリシーを曲げさせることにはならないかと気になりました。でも、四元と一緒に、また自分ひとりでも取材を進めていくうちに、いろんなことに気づかされました。それまではニュースを見ていても、自分はただの情報としか感じていなかったんですが、ヒロさんは決して他人事として考えない。社会の捉え方が、自分とはまるで違うことを思い知らされたんです」
松元や彼の周囲を取材していくうちに、牧監督は新人のドキュメンタリー監督としていろんなことを吸収していく。牧監督の率直さが、本作の取材を進めていく原動力にもなったようだ。
牧「残念なことに本編からはカットしたんですが、ヒロさんが20年以上にわたって演じている演目『憲法くん』を題材にした映画『誰がために憲法はある』(19)を撮った井上淳一監督にも取材しました。井上監督は今のテレビの状況を『無自覚な自主規制がはびこっているよね』と語ったんです。その言葉にドキッとしました。テレビ側の人間が自分たちから表現を規制することで、テレビは豊さを失ってしまっていた。そして、そのことに気づいていないことがいちばん怖いことだなと思えたんです」
ドミニカへの移民問題を扱ったドキュメンタリー作品などを手掛けてきた四元監督は、鹿児島テレビの下の世代がドキュメンタリー制作に興味を持つことを待ち望んでいた。四元監督の思惑に、牧監督はうまくハマった格好となった。
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