韓国映画は多様性をどう描くか『ユンヒへ』『オマージュ』『スティール・レイン』
#映画 #韓国
グローバル化で南北関係の描き方にも変化『スティール・レイン』
【ストーリー】
全世界が注目する「平和協定締結」に向け、韓国大統領・ハン、北朝鮮委員長・チョ、アメリカ大統領・スムートによる首脳会談が北朝鮮で開催された。米朝間の意見が割れる中、核兵器放棄と国交正常化に強く反対する北朝鮮の護衛司令部・パク総局長による軍事クーデターが突如勃発し、3首脳は弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦「白頭号」に拉致監禁されてしまう。今にも核戦争に発展しうる緊迫状態のなか、国家の威信と野心をかけた者たちの思惑が交戦し、逃げ場のない潜水艦は戦場さながらの激闘へと突入していく……!!
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2000年代、北朝鮮がミサイル実験を繰り返し、それが世界的に連日報道されていた。世相を反映する映画でも、描き方に変化が現れる。『チーム★アメリカ/ワールドポリス』(2004)、『キャプテン・ウルフ』(2005)、『ステルス』(2005)など、北朝鮮を“敵”とする作品が増えたのだ。
韓国では、北朝鮮との関係を描いた作品は昔からある。『シュリ』(1999)、『天軍』(2005)、『トンマッコルへようこそ』(2005)のように、人間は南も北も同じであり、悪いのは政府や国のあり方といった、真っ当な描かれ方をされることが多い。
近年でも、2021年に公開され、世界中でヒットを記録した『モガティシオ』(日本未公開)など、南北関係を扱った作品の中でもそれを感じとることができる。『白頭山大噴火』(2019)ではアメリカでも知名度の高いイ・ビョンホンが北朝鮮工作員を演じていたし、Netflixドラマ『イカゲーム』(2021)でも、脱北者の少女との協力戦が描かれていた。
これは、南北関係の平和的解決を願う国民意識が大前提にあるだろうが、近年においては別の意味もありそうだ。
Netflixなどの動画配信サービスで、これまで以上に世界中で韓国の作品が観られるようになったことは、アジア系への理解を深める一助にもなるだろう。その一方で、やはり他国からの見え方の問題にも目を配らなくてはならない。
韓国と北朝鮮は、政治的に分断されているだけで、もちろん見た目は変わらない。北朝鮮を“敵”として描くことによって、非アジア人を中心とした観客に、韓国人に対してまで悪い印象を拡散してしまいかねないという懸念もあるのではないか。アーティストや俳優を世界に売り出したい韓国にとって、レイシズム(人種差別)を助長しかねない作品を世界マーケットに売り出すことには、葛藤があるのだと思える。
『スティール・レイン』は、極端に誇張された、日本でいえば漫画家・かわぐちかいじ作品のような軍事フィクションで、容赦のないほどにトンデモ描写が多い。ドナルド・トランプと金正恩が握手をしたことが世界中で大きく報道された2018年米朝首脳会談の裏で「実はこんなことが起きていた!」という風刺作品でもあるのだが、金正恩がモデルらしき人物は、英語も堪能、常識人の好青年として“逆誇張”されている。一方、アメリカ大統領が“下品オヤジ”のような描かれ方をしているのは、まさにトランプをそのまま誇張したキャラクターであるのだが。
単純に密室での3国の間にある緊張感を演出するのであれば、北朝鮮の首脳を好青年として逆誇張する理由はないだろう。ここには世界への見せ方、そしてレイシズムへの意識が強く反映されているようにも思える。
『スティール・レイン』
監督・脚本:ヤン・ウソク出演:チョン・ウソン、クァク・ドウォン、ユ・ヨンソク、アンガス・マクファーデン、白竜
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