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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.668

変わりゆく「マッチョ像」描くイーストウッド主演&監督作『クライ・マッチョ』

人間と動物をフラットな目線で描くイーストウッド監督

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イーストウッドは『許されざる者』(92)以来となる乗馬シーンも見せている

 クリント・イーストウッドが主演したマイケル・チミノ監督の『サンダーボルト』(74)も年の離れた男たちのロードムービーだった。当時のイーストウッドは44歳、相棒役のジェフ・ブリッジスは25歳だった。社会に居場所のない男たちを主人公にした『サンダーボルト』では、朝鮮戦争世代のイーストウッドとベトナム戦争世代のジェフ・ブリッジスとの異なる世代の友情が描かれた。

 イーストウッドが売れないカントリー歌手を演じた監督作『センチメンタル・アドベンチャー』(82)も、52歳になったイーストウッドが実の息子カイル・イーストウッド(当時14歳)と共演したロードムービーとして忘れられない。『クライ・マッチョ』のラフォ役のエドゥアルド・ミネットは撮影時14歳だったので、今回は実に76歳差のバディとなる。

 卒寿を迎えたイーストウッドがアクションを見せるシーンはごく控えめだが、西部劇『許されざる者』(92)以来となる乗馬シーンが用意されている。序盤はかなり疲れた様子のイーストウッドだが、馬に乗るシーンは颯爽としており、物語もここから盛り上がっていく。言葉の通じない馬を相手に巧みな手綱さばきを見せることで、主人公・マイクの存在感がぐんと増す。カウボーイはいつの時代も男の子の憧れだ。それまで反抗的だったラフォも、ただのジジイとしか思っていなかったマイクのことを見直すようになる。

 マイクはずっと馬を育ててきたことで、家畜全般の扱いに慣れていた。旅の途中で立ち寄った小さな村で、マイクは獣医代わりに重宝される。ニワトリ、馬に加え、羊や牛もぞろぞろと登場する。食堂の気のいい女店主・マルタ(ナタリア・トラヴェン)に食事をごちそうになりながら、動物たちの世話にいそしむマイクとラフォだった。一方、ラフォの母親・レタはセックス狂で、父親のハワードはお金にがめつい性格である。イーストウッド監督は、人間と動物を同じようにフラットな目線で見つめている。

 イーストウッド作品を振り返ってみると、彼が演じ、描いてきたマッチョ像は時代と共に大きく変わってきた。70年代~80年代は、はぐれ刑事役が大当たりとなった『ダーティハリー』(71)やオランウータンを相棒にした『ダーティファイター 燃えよ鉄拳』(80)などで典型的なタフガイを演じてきた。米国の強さの象徴だった。

 だが、90年代からは『許されざる者』などで、マッチョとして生きてきた男の責任の取り方が大きなモチーフとして描かれるようになっていく。贖罪の意識を持つ男が主人公となり、アクションものから深みのある人間ドラマへと変わっていった。さらに一度は俳優業からの引退を表明した『グラン・トリノ』(08)以降は、若い世代への慈愛のまなざしを感じさせる作品が目立つようになった。

 イーストウッドも年齢を重ね、そして時代の流れと共に「マッチョ」の描き方を変えてきたように思う。だからこそ、ハリウッドで長年にわたって活躍を続けることができたのだろう。

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