『ダンダダン』『SANDA』…まだまだ追いつける!既刊3巻以下のおすすめコミック
『SANDA』著:板垣巴留(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)
動物たちを主人公に、「肉食と草食」というテーマで社会の理不尽さを鮮やかに描き切った傑作『BEASTARS』。その作者である板垣巴留氏が、早くも新連載をスタートした。その名は、『SANDA』。12月に第1巻が刊行されたばかりだが、これがまた面白い。
超少子化が進む近未来。子どもたちが未来を担う希少な存在として手厚く扱われるようになった世の中では、様々な風習が廃れていた。そんななか、とある全寮制の学園で事件は起こる。ある女子学生が失踪したのだ。彼女の行方を捜す冬村は、なぜか同級生の三田(さんだ)に包丁を振り上げて……。
先にちらりとだけ『SANDA』の内容を話してしまうと(本当は知らずに読んでいただきたいが……すみません!)、本作はサンタクロースの末裔である三田が冬村によって能力を呼び起こされ、学園の秘密を探るという物語。いたいけな少年が筋骨隆々の中年男性に“変身”するという意表を突いたストーリーが展開するのだが、第1話の魅せ方からして少年漫画のツボを徹底的にカバーしており、それでいて「新しい」から驚かされる。
教室の床に倒れこんだ三田の上に馬乗りになり、冬村が包丁を振りかざすという衝撃的なシーンに「女子のお尻って妙に冷たいんだな 今 考えることじゃないけど」というモノローグが重なる1ページ目で読者を強烈に引き付け、その後「この世界では夏と冬が逆転している?」といったような設定にも触れながら、何気ない日常描写が伏線となり、“サンタクロースの呪い”が解放されて三田が変身する――といったシーンまで一気に駆け抜ける。優れた作品は第1話が完璧と言ってしかるべき完成度であることが多いが、『SANDA』はまさにその典型。読者を引き込み、サプライズも仕掛けつつ、続きが気になる“引き”で終わっている。
その後のエピソードも、サンタにまつわる様々な能力が発動していくという少年漫画の王道展開を押さえつつ、キャラが立ちすぎている学園長(アンチエイジングをやりすぎて表情が消え、怒るときには杖を使って無理やり顔を歪ませるという演出が強烈!)といった怪しげな人物も続々と投入。ますます冴えわたる板垣氏の作劇の上手さも相まって、今後、さらなる話題を呼び起こしていくことだろう。
『東京ヒゴロ』著:松本大洋(小学館「ビッグコミックオリジナル増刊号」連載)
松本大洋といえば、言うまでもない巨匠だ。『鉄コン筋クリート』『ピンポン』『竹光侍』『Sunny』……独特のセリフ回しと世界観、癖になる作家性で、娯楽と芸術の双方で世界中のファンを魅了してきた(個人的には、ヒーロー映画隆盛のいまこそ『ナンバー吾』をアニメ化してほしいところ)。
その彼の新連載『東京ヒゴロ』は、大手出版社を早期退職した漫画編集者のセカンドライフを描くヒューマンドラマ。淡々とした物語だが、「豊か」としか言いようがない深遠な傑作である。主人公の塩澤和夫は、約30年漫画編集者として働いた50代半ばの男性。立ち上げた漫画雑誌が廃刊の憂き目にあい「自らと読者の乖離を認識」した彼は、“贖罪”として漫画業界から足を洗おうとするのだが――。
個人的に松本大洋氏には多大な影響を受けており、書店で見かけた際には内容も知らぬまま秒で購入してしまったが、1巻を読み終えて心に浮かんだ言葉は「敬服」であった。職務に実直な50代の男性は漫画の主人公としてはなかなかに地味であり、ともすれば読者層を限定・制限してしまうことにもなりかねない。ただこの『東京ヒゴロ』には、自らと境遇や価値観が重なっていなくても深く共感してしまうオーラがある。
漫画業界から離れようとしても、漫画への愛情と情熱がなくならず、自らに困惑する塩澤。踏ん切りをつけようと自宅の漫画をすべて売り払おうとするが、いざ部屋から漫画がなくなると後悔の念に襲われ、売るのをやめてしまう――。といったような「惑い続ける」姿が非常にリアルで、松本大洋氏ならではの優しいまなざしがそれらすべてを肯定する空気感が実に心地よい。また、塩澤が訪ねる漫画家も編集者も、皆が一人の人間として存在しており、「ものづくり群像劇」としての味わいも抜群。漫画家にしても、「現役」と「元」のダブルの人生が描かれるのが秀逸だ。
さらに恐るべきは、ノスタルジックでありながら「古さ」がないこと。懐かしい空気が漂っていながらにして、描かれているのは(マスクこそ皆していないが)“いま”であり、スマートフォンやSNSが自然に溶け込んでいる。巨匠の新作にして、新境地を見た想いだ。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事