『青天を衝け』大総括! 渋沢や慶喜のクリーンな描かれ方は「大河の朝ドラ化」!?
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渋沢栄一と徳川慶喜の描かれ方に見る、大河ドラマの「朝ドラ化」
老後も性愛を強く求める渋沢のような人物を「老いてもますます盛ん」などと世間はひとくちに語ってしまいますが、渋沢の場合、実の家族からも世間からも偉人として祭り上げられてしまった息苦しさの中で、生身の自分を見せられた相手は愛人女性しかいなかったのでは……という話を前回のコラムでもしました。“老いの孤独”“老いの悲しみ”といった負の要素は、史実の渋沢にも確実にあったと思われます。
しかし、ドラマでは最終回においてもそういった部分は見えてはこず、“生涯現役の超人”としての一面ばかりが目立ってしまった印象がありますね。
世界を股にかけて飛び回った凄い人・偉い人としてはそれなりに詳しく描かれましたが、それだけでは渋沢の内面の真実は見えてこない。そういう意味で『青天』の後半は不満が残るところがありました。一人の人物を深堀りできる大河ドラマという枠だからこそ、大森先生の筆力で、渋沢のドロドロとした、偉人とは呼べない部分にももうちょっとタッチしていただけていたら、「きれいにまとまった」以上の感想を持てた気がするのですが……。最終回のタイトルが「青春は続く」だったことにも明らかですが、『青天』の渋沢は、老いても蒸留水のような清らかさのままでしたからね。
これは何も渋沢だけではなく、たとえば史実では“愛妻家”などとは絶対にいえない徳川慶喜の描き方にも同じことが言えたのですが、あまりに美しく、クリーンに描かれすぎてしまったな……という残念さを感じました。
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大河ドラマの朝ドラ化は、2008年の『篤姫』以来、何度も指摘されています。しかし、当の「朝ドラ」(連続テレビ小説)そのものは近年、現在放送中の『カムカムエヴリバディ』もそうですし、昨年放送された『おちょやん』なども、キレイごとではない、人生の負の部分もキッチリと描いている印象がありますよね。朝ドラと並んでNHKを代表する番組である大河においても、登場人物やその時代を深堀りした作品が増えていくことを願うのです。
……などと語りつつも、筆者にとって『青天~』はそれなり以上に楽しむことができた歴史ドラマだったのも事実です。『青天~』の中で、みなさまにとってのベストシーンはどこだったでしょうか?
筆者が一番興味深かったシーンは、渋沢ら幕臣たちがパリを訪問したときの映像でした。
19世紀後半のフランス皇帝・ナポレオン三世は、古臭く汚れた街にすぎなかったパリを全面的にリノベーションし、「花の都」として整えることに成功した人物です。そして、渋沢は、ナポレオン三世が生まれ変わらせたばかりのパリに、幸運にも足を踏み入れることができたのです。ドラマでは、コロナ禍ということもあってさすがに現地ロケはなく、そもそもナポレオン三世夫妻と渋沢たちが面会したテュイルリー宮殿が現存しないという制約もあり、多くの部分がCGだったようですが、ナポレオン三世の時代の“新しい”パリの空気は、現在のパリを映しても再現しづらかったと思います。
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──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ ...こうした華やかなパリの映像とは対照的に、幕府瓦解後の日本は深刻な内乱状態にありました。渋沢が海外に発つ際、彼の養子となっていた渋沢平九郎(岡田健史さん)の壮絶な自害シーンは、突出して重厚に描けていたと思います。あの場面にも忘れられないものがありました。
それでは、ベストキャラクターは誰でしょうか? 『青天~』のたくさんの登場人物の中でも、特に評判が高かった徳川慶喜(草彅剛さん)は別にしても、よく造形され、よく描けていたといえるのは平岡円四郎(堤真一)と土方歳三(町田啓太さん)でしょうか。
特に平岡は、暗殺された回の放送後に“平岡ロス”というフレーズがネットを飛び交うほど人気でした。史料を見る限り、「優秀だけれど、いまいち人好きしない人物」だった平岡を、「頼りがいのある理想の上司(しかもちょっとお茶目)」として『青天~』が描いたのは素晴らしいセンスでした。
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