「鬱は特権階級の病気だった」極上ジョークで斬る “白と黒で見る”アメリカの今
#アメリカ #Saku Yanagawa
チェが向き合う「黒から見た白いアメリカへの疑問」極上のジョークで
話はブラック・ライブス・マター運動(BLM)にも及ぶ。
「昨年のBLM運動を家で見ていて俺は誇らしかった。黒人が一丸となって抗議したんだから。多少の略奪行為はあったけどな。でもそしたらもっとすごいことが起こっちまった。今年の1月6日の議事堂乱入さ。あれにはたまげた。俺たち黒人が盗んだのはたかだか量販店のテレビぐらいだったけど、“あいつら”は合衆国憲法までをも盗もうとしやがったんだ」
BLMの抗議運動に乗じて、各地で暴動や略奪が起こった。ショーウィンドウが割られ、高級ブランドから家電用品まであらゆる商品が盗まれた。街には多くの傷跡が残り、一年半以上が経過した今尚、ショーウィンドウをベニヤ板で覆う店も少なくない。
そして今年の1月、トランプ前大統領による扇動で、昨年の大統領選の結果を不正と唱える支持者が大挙して議事堂に押し入るという最悪の事件が起こった。チェの言う「あいつら」とは、この暴動に参加した「白人至上主義者」のことを指す。
チェが一貫して向き合う「黒から見た白いアメリカへの疑問」という題材。このジョークに、会場ではこの日一番の笑いが起きた。
そして最終盤に差し掛かると、彼は一層語気を強めて語り出した。
「ようやく、この国で黒人のメンタルヘルスが認められたんだ。最高のニュースさ! それまでは黒人が心を病むとただ“クレイジー”だと言われるだけだった」
テニスの大坂なおみが全仏オープンを棄権したこと、そして体操のシモーネ・バイルズがオリンピックの決勝を棄権したことを例に出し、「素晴らしい時代になった」と説いてみせる。
現在アメリカでは、5人にひとりが何かしらのメンタルヘルスを抱えているという統計データが出ており、自治体も「メンタルヘルス休暇」の導入などの策を講じている。大坂にしても、バイルズにしても棄権に対する世間の評価は賛否両論だったが、アスリートやアーティストなどのように影響力を持つ人々が自身の鬱や不安障害などを公表することで、社会での理解も深まりを見せつつある現状に、チェは好意的な意見を述べる。
そして、こう続けた。
「これを言うと白人は怒るけど、鬱は特権階級の病気だ。鬱が病気だって思うのは、落ち込む必要がないことが前提にあるからだ。黒人が綿花畑で奴隷だったとき、俺たちは毎日落ち込むことなく生きていただろうか? これこそアメリカが400年間抱えるイカサマの“歴史”なんだ。どうしてこれまで黒人のメンタルヘルスを“やつら”が認めてこなかったか。それはもし認めたら、なぜ黒人が心を病むことになったか、その根本の理由を説明しなきゃならなくなるからだ」
奴隷解放宣言から150年以上が過ぎてもなお、色濃く存在する白人と黒人の間の溝。BLM運動においても、賛成派と反対派で大きな「分断」が見て取れる。
決して笑えないニュースでさえ、“キャスター”として笑いに昇華してきたマイケル・チェ。黒人の立場からアメリカの「歴史」と「今」に向き合い、それを真摯に笑いに変えようとする姿勢と、それを笑うアメリカに、決して悪くはない「未来」が見える気がした。
<マイケル・チェ>
1983年ニューヨーク生まれのコメディアン。『デイリーショー』に出演したのち、2013年に『サタデー・ナイト・ライブ』にライターとして参加。翌14年からは作家兼『ウィークエンド・アップデート』のアンカーを務め、人気を博すほか、賞も多数受賞。ネットフリックスでは2016年に自身初のスペシャルをリリース。
<『Shame The Devil(『ぶっちゃけ話』)』>
マイケル・チェ5年ぶり2作目となるスペシャル。ワクチン問題やBLM、ウォークカルチャー、メンタルヘルスなど2021年の時事ネタに切り込んだ意欲作。黒人の立場から見るアメリカの今をジョークに昇華する社会派スタンダップコメディ。
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