手塚治虫からカレー沢薫まで……動物にも隠毛にもなる「漫画家の自画像」徹底分析
#インタビュー #漫画
ちばてつやの自画像はキャラと同様に変化
──媒体の読者年齢によって、作者の打ち出し方が違うそうですね。
南 若年層が読む雑誌ほど、漫画家に親近感を持ってもらいたい、マンガ好きになってもらいたいという意図だと思いますが、自画像や作者コメントに力を入れています。ファンレターも青年誌や女性誌にはほとんど来ないけれども、少年誌・少女誌なら今でもそれなりに来ると聞いています。身近さを感じているからこそ、読者も手紙を送るわけですよね。
──自画像を変化させる作家とさせない作家がいるとのことですが、何が違うのでしょう。
南 キャラ化のさせ方ですね。例えば田中圭一さんの自画像は好青年風なんですが、田中さんの今の写真を見た人から「こんなに老けたオッサンなのか。自画像詐欺だ」と言われたことへの反論として、「これは自画像ではあるけれどもアイコンでありキャラクターだから、ヘタに変えるわけにはいかないんだ」と言っています。これは手塚さんもそうですし、山岸凉子さんなどもそうですね。
あだち充さんや高橋留美子さん、ゆうきまさみさんも自画像が変わりませんが、これはご本人たちの見た目もほとんど変わらないので、自画像を「変えない」のか「変わりようがない」のか、なんとも言いようがない(笑)。
一方で、年齢とともに変わっているのはちばてつや先生です。ちば先生は作中キャラクター自体が、ごはんを食べたらトイレに行くし、ヒゲも伸びる。矢吹丈が少年から大人の男に成長したようにキャラクターも年を取っていきますから、自画像を変えていくのは作風と一致しています。
時期によって変化が激しいのは江口寿史さんですが、おそらくその時々の気分や打ち出したいセルフイメージに合わせて意図的に変えて楽しんでいる。江口さんはちば先生リスペクトですから、その影響もあるでしょう。
──自画像には男女差もある?
南 一概に言えませんが、多少はあるかもしれません。自意識の問題もあるのでしょうけれども、それ以上に性別によって社会で求められる振る舞いが違うことが影響していると思います。世間の目が男性と女性に対して違う。男性の場合は、美化しようが卑下しようが、ある意味どうでもいいというか、どちらでもいい。ところが女性の場合は、美人に描くと「美化しやがって」と言われるし、そうじゃなく描くと「実物のほうがいいと思われたいのか」と、どっちにしても文句を付けられがちです。だから、そういう面倒くささを回避するためもあって、女性のほうが自画像をデフォルメした記号的なキャラにしたり、動物にしたり、無機物にしたりという傾向が強い気がします。最たる例がカレー沢薫さんの「陰毛」の自画像ですね。
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