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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】年末特別編

『シン・エヴァ』『はな恋』ほかコロナ禍でも大健闘した2021年の日本映画

若い世代の飢餓感が生んだサプライズヒット作

『シン・エヴァ』『はな恋』ほかコロナ禍でも大健闘した2021年の日本映画の画像3=
©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 2021年いちばんのサプライズヒットとなったのは、ミニシアター系の配給会社である東京テアトルとリトルモアが仕掛けた『花束みたいな恋をした』だ。1月に公開が始まり、ロングラン興行によって興収38億円を超える異例の大ヒットとなった。菅田将暉と有村架純が共演した恋愛ドラマで、大学生の2人が出逢い、就職を経て、やがて別れることになる5年間の軌跡を描いている。

 2人が付き合い始めるきっかけとなるのが深夜営業のカフェで見つけた押井守監督だったり、お互いに今村夏子の小説が好きだったり、「きのこ帝国」をカラオケで一緒に歌ったりと、趣味や考え方がぴったり一致していることで打ち解けていく。好きな作家や映画が同じで、ファッションセンスもよく似ている。理想のカップルのように思えた2人だが、社会人としてのアイデンティティーが新たに構築されていくと、同じマンションで暮らしながらも次第に心の距離が生じていくことになる。

 結局のところ、相手の中にいるもうひとりの自分が好きだったという幼い恋であることが露呈されていく。美しい花束は地面に根付くことなく、やがて萎んでしまう。初めての恋愛体験を通して、若い主人公たちが大人へと成長していく痛みが切々と描かれた苦い青春ドラマだった。脚本・坂元裕二&土井裕泰監督という人気ドラマ『カルテット』(TBS系)のコンビが手掛けたことに加え、コロナ禍により出会いの場がないという若い世代の恋愛に対する切実な飢餓感が予想を上回る大ヒットにつながったようだ。

 菅田将暉はサスペンス映画『キャラクター』、山田洋次監督の話題作『キネマの神様』などにも主演、有村架純は人気シリーズの最終作『るろうに剣心 最終章 The Beginning』、柳楽優弥&三浦春馬と共演した『映画 太陽の子』でも好演するなど、共に売れっ子ぶりをみせた。あまり話題にはならなかったが、有村架純が出演したドキュメンタリー映画『人と仕事』も、コロナ禍での生活が記録された興味深い内容だった。

 元々は、有村架純と志尊淳が共演する映画『保育士T』が2020年に撮影されるはずだったが、コロナの感染拡大のために撮影中止となってしまった。その代わりに用意されたのが、コロナ禍でもエッセンシャルワーカーとして働く保育士や介護施設の職員たちを有村と志尊がそれぞれインタビュアーとして取材するという脚本のないドキュメンタリー企画だった。

 有村と志尊が2人だけでフリートークする場面も『人と仕事』にはあり、人気俳優ゆえに現実社会と遊離してしまうことへの不安感、周囲に流されてしまうのではないかという恐怖感などの本音が吐露されていた。芸能人という職業は、メンタル面でとても傷つきやすいことを感じさせた。

 2021年の映画界は興収的には厳しいものになりそうだが、もっと多くの人に劇場で楽しんでもらいたい素晴らしい作品がとても多かった。筆者も見逃してしまっている作品が多々ある。年末年始の機会に、あなただけの傑作映画をぜひ発見してほしい。

 

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
監督・脚本/庵野秀明 主題歌・宇多田ヒカル
配給/東宝、東映、カラー Amazonプライムビデオにて配信中

『すばらしき世界』
原作/佐木隆三 監督・脚本/西川美和
出演/役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美
配給/ワーナー・ブラザース映画 DVD&ブルーレイが発売中

『護られなかった者たちへ』
原作/中山七里 監督/瀬々敬久 脚本/林民夫、瀬々敬久
出演/佐藤健、阿部寛、清原果耶、林遣都、永山瑛太、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子
配給/松竹 新宿ピカデリーほかで上映中

『花束みたいな恋をした』
脚本/坂元裕二 監督/土井裕泰
出演/菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
配給/東京テアトル、リトルモア DVD&ブルーレイが発売中

最終更新:2022/05/17 15:42
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