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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】年末特別編

『シン・エヴァ』『はな恋』ほかコロナ禍でも大健闘した2021年の日本映画

社会システムの闇に斬り込んだ瀬々監督の力作

『シン・エヴァ』『はな恋』ほかコロナ禍でも大健闘した2021年の日本映画の画像2=
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 西川美和監督の『すばらしき世界』は、バブル期(90年)に発表された佐木隆三のノンフィクション小説『身分帳』を、暴対法や暴排条例が施行された現代社会にうまく移し替えてみせた。刑務所から出所した元ヤクザ(役所広司)が自分の居場所を求めてさすらう物語だが、シリアス一辺倒にならない上質のエンタメ作品となっていた。真っ直ぐにしか生きられない不器用な主人公を演じた役所広司に加え、仲野太賀、北村有起哉、梶芽衣子、桜木梨奈ら助演陣も素晴らしかった。

 社会の不寛容さ、ますます顕著になる社会格差をモチーフにした作品が多かったのも2021年の特徴だろう。この国がすでに階級社会であることを描いた門脇麦&水原希子共演作『あのこは貴族』、瀧内公美がドキュメンタリー番組のディレクターを熱演した『由宇子の天秤』、実際にあった万引き事件にインスパイアされた吉田恵輔監督の『空白』なども見応えのある社会派ドラマだった。

 酒鬼薔薇事件を元ネタにした『友罪』(18)、村八分に遭った男性が凶行に走った「山口連続殺人放火事件」ほか凶悪事件を題材にした『楽園』(19)など、瀬々敬久監督は犯罪を通して現代社会に向き合ってきた。佐藤健や阿部寛ら人気キャストを起用した『護られなかった者たちへ』は、生活が困窮しているにもかかわらず生活保護を受けることができずにいる人たちの実情に迫った社会派ミステリーだ。倍賞美津子、清原果耶の迫真の演技が、重いテーマを生きたドラマへと変えてみせている。

 生活保護の申請を提出しようとしても、福祉予算には限りがあるため、「水際作戦」によって撥ねられてしまうケースが少なくない。2007年には北九州市の50代の男性が生活保護を打ち切られ、「おにぎり食べたい」というメモを残して餓死している。2012年には札幌市のマンションで暮らしていた40代の姉妹が生活保護の申請をしたものの認められず、姉は病死、障害のあった妹は凍死している。今も生活保護をめぐるトラブルは絶えない。

 餓死するくらいなら、その前になぜもっと懸命に助けを求めなかったのかと思うかもしれないが、それは安定した立場にいる人間の発想だ。生活に困窮し、電気・ガス・電話などのライフラインを断ち切られてしまった人間は、生きる気力すらも失ってしまう。安定した生活を送っている人たちには姿が見えない、声が聞こえない「透明人間」がこの国には大勢いることを忘れずにいたい。

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