年間300本以上観る映画ライター・ヒナタカの2021年映画ベスト10
#映画
名作アニメの映画シリーズ最新作とオリジナルアニメの傑作が1.2フィニッシュ!
3位:『彼女が好きなものは』
ゲイの当事者の苦悩と、BL好きな女の子の気持ちを並行して描く物語だ。その構造には危うさがあるものの、本編にはそれに自己批判的な言及があり、同列で語ることをよしとはしていないので、間違いなく誠実に向き合ってる。特に重要なのは自分が知らなかった世界を知ろうとする、「理解」を試みる人の心の動きそのもの。人と人が関わり合うコミュニケーション、相互理解の尊さを示した映画とも言えるだろう。
神尾楓珠の繊細さ、山田杏奈の天真爛漫さ、前田旺志郎の良いヤツぶり、三浦獠太の敵意を剥き出しにしてしまう少年など、実力派の若手俳優たちが一生忘れらないほどの鮮烈な印象を与えていた。同性愛の当事者や創作物はもちろん、大切な誰かに対して、「簡単にわかったような気になってはいけない」「でも知ろうとする気持ちは大切にしたい」という価値観を、今一度確かめられる作品だ。
2位:『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』
劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズにおいて、新たな大傑作が誕生した。あらすじは、しんのすけたちが全寮制の超エリート校に1週間の体験入学をすると、風間くんがお尻に奇妙な噛み跡をつけられ「おバカ」になってしまう怪事件に遭遇するというもの。まずは「本格(風)学園ミステリー」と銘打たれた謎解きが良くできており、「出された全てのヒント」から、「本当に犯人を当てられる」ようになっている上に、受け手を惑わす「ミスリーディング」も存分に仕込まれていた。
そして劇中の超エリート校の制度は、「やりすぎた成果主義とランク付け」による分断と差別を招いており、もはや格差社会や管理社会を風刺したディストピアSFの様相を呈している。さらには「友情」「青春」「多様性」などの要素を見事に絡めた脚本はもはや超絶技巧であり、キャラクターも全員が愛おしく、クライマックスはもう拍手喝采、子どもへの教育上も素晴らしく、そして大人こそが感涙する素晴らしいメッセージを示してくれていた。ソフトは2022年2月4日に発売となる。
1位:『アイの歌声を聴かせて』
原作のないオリジナルのアニメ映画であり、初めこそ興行成績は大苦戦したものの、SNSでの絶賛の嵐と愛情たっぷりのファンアートの投稿によって異例の盛り上がりを見せた作品だ。あらすじは、試験中のAIが転校生としてやってきて、ひとりぼっちの少女へ唐突に「今、幸せ?」と聞くというもの。このポンコツ(?)なAIが、不協和音を起こしていた少年少女の関係を引っ掻き回すのだが、彼らはそのおかげでわだかまりが解けていく。そんなSFが紛れ込むジュブナイルな青春ものとしてまず楽しめるのだ。
加えて重要な要素に「ミュージカル」があり、劇中のAIはなぜか歌いながら踊り出す。「ミュージカルの突然歌い出すのって変だよね」という違和感を逆手に取って「ポンコツなAIだから」という理由で解決するのがユニークであるし、そのことがとある「秘密」につながる、物語上もとても重要なものになっていく。主演の土屋太鳳の声の演技と歌唱力も圧巻。中盤の斬新すぎる「ジャズ柔道ミュージカル」の細やかなリップシンクや体の動きなど、アニメとしてのクオリティも一級品。AIもの、ミュージカル、青春物語、それぞれの要素が見事に融合した、新たなアニメ映画の歴史的な大傑作だと断言する。年末年始も新宿ピカデリーや立川シネマシティで上映中であり、追加の劇場もあるので、劇場情報をぜひチェックしてほしい。
この他で入れようか迷ったのは、『新感染半島 ファイナル・ステージ』『花束みたいな恋をした』『哀愁しんでれら』『ラーヤと龍の王国』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『野球少女』『ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち』『漁港の肉子ちゃん』『映画大好きポンポさん』『ミッチェル家とマシンの反乱』『ファーザー』『茜色に焼かれる』『ドライブ・マイ・カー』『由宇子の天秤』『カラミティ』『シャン・チー テン・リングスの伝説』『DUNE/デューン 砂の惑星』『ラストナイト・イン・ソーホー』『さよなら、ティラノ』『キングスマン:ファースト・エージェント』『エッシャー通りの赤いポスト』などがある。もう、気持ち的には全部実質1位だ。
さらに、年明け1月7日から公開される『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や『こんにちは、私のお母さん』も、早くも2022年映画ベスト10に入れたい素晴らしい作品だった。引き続き感染対策をしつつ、ぜひ映画館で映画を楽しんでほしい。
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