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ほぼ全員無名の役者たちの熱気を喰らう映画『エッシャー通りの赤いポスト』

必死に生きていた役者が輝く壮大なクライマックス

ほぼ全員無名の役者たちの熱気を喰らう映画『エッシャー通りの赤いポスト』の画像3
C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

 ほぼ無名の役者志望者たちの他にも、舞台で長らく活動してきた山岡竜弘、映画やドラマでキャリアを重ねてきた小西貴大、さらにベテラン俳優の藤田朋子もワークショップに自ら応募し、選考を経て選抜された51名の中の1人として参加している。ファッションモデル及びフォトグラファーとして知られるモーガン茉愛羅も鮮烈な印象を残すだろう。

 さらに渡辺哲、諏訪太朗、吹越満といった園監督作品おなじみのベテラン俳優たちも脇を固めていることも見所だ。そうした有名無名に関わらず、経歴も年齢も異なる者たちに、な園監督がそれぞれの「らしさ」を踏まえたぶっ飛んだキャラクターを与え、その実人生を重なるように熱演する姿は、何よりも「迫力」を感じさせるだろう。

 そして、前述してきたような「人生(映画)の主役になれないことへのカウンター」がぶちまけられるのが、それら51名全員が愛知県豊橋市に移動し撮影した、壮大なクライマックスだ。

 実際の本編を観れば、そのロケーションの意義がとてつもなく大きいことがわかるだろう。装飾が加えられた商店街は、通りも含め全面的に借り切って撮影した。その甲斐のある「カメラをどこに向けても映える壮大な空間」が生まれており、そこで全員が濃い役を演じてこその、映画の中に彼らが「生きている」と実感できる特別な時間が流れていたのだから。

 本作の企画を担当した松枝佳紀は、クランクアップを迎え撮影を振り返り、こう語った。「ワークショップを受講した新人の俳優は、どう撮られるか、自分の台詞がどうのこうのと気にして芝居がぎこちなくなるんですが、この映画ではそんな余裕は誰一人なく、みんな必死に生きていた。だからこそ本物になれた瞬間があったと思う」と。

 まさにその通りで、らしい「役者及びキャラクターが必死になる」種々の演出が、初めこそぎこちなかった役者志望者たちへ、映画のマジックを起こしたと言えるのではないか。死の淵から蘇った園子温監督がそれを実現したことは、奇跡と言い換えてもいいのかもしれない。それだけの映画体験を期待して、劇場へ足を運んでほしいと願うばかりだ。

 最後に余談だが、本作の製作経緯で面白いエピソードが1つある。俳優志望の夫を亡くした風変わりな女性の「切子」を演じた黒河内りくは、園監督作品を1本も観ずにオーディションに来ていたのだが、観たと嘘をついてその役を勝ち取った。園監督はそのことを知らないはずの時点で、同役がコンビニで有名監督の役に向かって放つセリフ「あなたの映画は実は一度も見たことがありません。オーディション会場でははっきり言って嘘つきます。『昔からのファンです』と」を現場で思いついて与えたのだという。意図せず本人と役がシンクロする偶然が起きているというのも、本作の特異性を示しているようだ。

ほぼ全員無名の役者たちの熱気を喰らう映画『エッシャー通りの赤いポスト』の画像4
C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

『エッシャー通りの赤いポスト』

12月25日(土) ユーロスペースほかにて全国順次公開
監督・脚本・編集・音楽:園 子温
企画:松枝佳紀(アクターズ・ヴィジョン)
プロデューサー:髙橋正弥 小笠原宏之
出演:藤丸 千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、小西貴大、上地由真、縄田カノン、鈴木ふみ奈、藤田朋子、田口主将、諏訪太朗、渡辺哲、吹越満、ほか
制作プロダクション:ヒコーキ・フィルムズ インターナショナル
特別協賛:カーコンビニ倶楽部
特別協力:東京コネクション
製作会社:ヒコーキ・フィルムズインターナショナル/アクターズ・ヴィジョン/AMGエンタテインメント
配給・宣伝:ガイエ
C)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

 

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2021/12/25 17:00
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