ほぼ全員無名の役者たちの熱気を喰らう映画『エッシャー通りの赤いポスト』
#園子温
12月25日より映画『エッシャー通りの赤いポスト』が公開されている。本作は「鬼才」という言葉が何よりも似合う、園子温監督の最新作だ。
園監督は2019年2月に心筋梗塞を発症し、病院に救急搬送され生死の境をさまよった。そのため念願のハリウッド進出作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(21)が製作延期となり、身体の回復に務めつつも、空いた時間でできることに挑戦し誕生したのが、この『エッシャー通りの赤いポスト』である。
その『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が園監督のファンにとってもかなり困った作品……というよりも日本では酷評の嵐だった(個人的には嫌いではない)ために、今回も大丈夫か?と不安に思っている方も少なくはないだろう。
だが、そんな心配はいらない。『エッシャー通りの赤いポスト』は、『愛のむきだし』(09)や『冷たい熱帯魚』(11)の頃のアツい園子温監督が帰ってきた!心からと思える、146分中という上映時間中ずっと「熱量」にやられる内容だったのだから。
そもそもの園監督の猛烈な勢いで繰り出される極端な演出(主にキャラが叫びまくる)は好みが分かれるのだが、それを受けいれられる方にとっては2021年のベスト映画を塗り替える傑作になるのではないか。後述する通り、存分なエンターテインメント性もあるので、園監督作の初心者の方にもおすすめだ。さらなる魅力と特徴を記していこう。
『ロッキー』や『カメラを止めるな!』と似た構造
『エッシャー通りの赤いポスト』の最大の特徴は(後述する通りベテラン俳優も参加しているが)出演者のほぼ全員が無名であることだろう。というのも、ワークショップに参加した役者志望者たちと共に作り上げた映画なのだ。
後の実力派俳優を多く送り出した園監督の映画に出演するチャンスなだけあって、わずか2週間の募集で集まった人数は697名にのぼった。園監督が全ての応募書類に目を通した書類審査で478名まで絞られ、本編の原型となる脚本の一部を用いた演技面接で95名に絞り、さらに第二次演技面談で51人が最終的にワークショップ参加者に選ばれたという。
構造として面白いのは、映画本編が「有名監督の新作において、演技経験の有無を問わない俳優オーディションへの募集があり、さまざまな境遇の者たちが会場に集う群像劇」であること。つまり、現実でワークショップのためのオーディションを受けた(合格した)役者志望者たちに、映画の中でも同じようなシチュエーションが用意されているのだ。
無名であった役者の奮闘が、そのまま映画本編の物語とリンクする様は『ロッキー』(76)や『カメラを止めるな!』(17)にも近い。後述する通り現実ではあり得なそうな、クセの強すぎる極端なキャラクターがたくさん登場するものの、全体的には虚実がないまぜになったような、「半ドキュメンタリー」的な不思議な感覚が得られる映画でもあるのだ。
ちなみに園監督にとって、役者志望者たちから授業料を取って行うワークショップの形式には、懐疑的なところがあったそうだ。しかし、授業をするだけでなくだけでなく、映画を作って参加者全員が出演するならば、撮影現場でカメラの前で演じる「映画の演技」を体得することが可能となると考え、園監督初のワークショップがスタートしたという。
結果として、51人もいるキャラクターそれぞれが鮮烈な輝きを放つ、忘れがたい存在感と演技を見せつける映画作品となったことこそ、本作の最大の意義だろう。インディーズ映画として革新的であるとも言えるし、観たらきっと参加した役者志望者たち=キャラクターそれぞれを応援し祝福したくなる映画なのだ。
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