オズワルド伊藤のツッコミ技術の真髄を見た!元芸人が「M-1 2021」全ネタレビュー
#M-1グランプリ #檜山豊
錦鯉はいかにして優勝を獲得できたか?
7組目 ロングコートダディ「生まれ変わってワニになりたい」
このコンビにはコントのイメージがあったので、どんな漫才をやるのだろうと思っていたら、やはり漫才コントだった。ただこの漫才コントは漫才師のやる漫才コントとはボケの使い方が違っていた。
ひとつ目は一般的な漫才師だと「生まれ変わってワニになりたい」という部分をボケとして使う。つまりワニになって何がしたいとか、ワニになったらこういう不自由があるとかにスポットを当てると思うのだが、このコンビにおいてワニはあくまでもなりたいものでありボケではないのだ。
しかもネタがどういう風に展開していくかというと「ワニに生まれ変わりたいのはいいけど、生まれ変わるのはそんなに簡単じゃ無いから練習しよう」という部分で展開してく。「生まれ変わったらワニになりたい」というスタートのセリフから「生まれ変わる為の練習をしよう」と展開するなんて、思いもよらなかった。
さらに一般的な漫才師と違うところは、普通ならひとつのボケとして使われそうなボケをいつの間にかメインのボケとしてしまうところだ。このネタでいうところの「お前は(生まれ変わったら)肉うどんです」というボケ。これは一般的な漫才師なら、ひとつのボケで「いやだよ!」と一蹴して終わりそうなものだが、2人はこのボケを押し進め実際に肉うどんとしての天寿を全うしてきて、もう一度生まれ変わる為の順番待ちをするというところまで発展させる。
このような展開になると最初の「ワニ」である理由なんていらないんじゃないかと思いがちだが、後半ワニを活かしたボケがきちんと入ってくるあたりがなんとも憎い。
ここまでネタとしての完成度が高いのに、なぜそこまで評価されなかったのか……。それはこの大会がM-1グランプリという漫才の大会であったということだ。ロングコートダディのネタは最初のフリ以外、ほぼコントであり、漫才コントではなく”漫才のようなコント”だったのだ。そこを見逃さなかった審査員からの点数が伸びずファイナルステージ進出には至らなかった。
オール巨人師匠や松本さんも言っていたが、漫才というのは舞台を歩かずとも足踏みをするだけで自分の居場所を変えられるものなのだ。だからコントのように舞台を広く使うのではなく、あくまでセンターマイクの前でこのネタが出来ていたらもっと上にいけたはずだ。
8組目 錦鯉「合コンに行くための練習」
M-1グランプリ2021のチャンピオンに輝いた錦鯉だ。前年度の決勝進出以来、テレビで見る機会が増え、決勝進出したほかの芸人よりメジャー感がある分、漫才にも余裕が感じられた。
ネタ自体はいつもどおり長谷川さんの「こんにちは~」でスタートし、会場を錦鯉の空気に変えていく。ただいつも思うのはツッコミの渡辺さんが少しだけスカした感じが強いので、あとちょっとだけ声量を上げ、いい男感を抑えたほうがより笑いが起きやすいように思う。
ネタのテーマは長谷川さんが後輩と合コンに行くからおかしくないか練習をするというもの。昔からあるスタイルで、合コンが流行った時期にすべての芸人が手を出したような古い題材だ。
前回松本さんにパチンコがわからないと言われたので、誰にでもわかる合コンにしたと言っていたが、逆にこれだけ芸人にやられているネタはプラスなのだろうか。どこかで見たようなボケが多く、錦鯉の長谷川さんのキャラに合っていることで笑いは起きていたが、果たして錦鯉では無い芸人がやったとしたらファイナルステージへ進出しただろうか?
それでも後半は力技で笑いを畳みかけていたのでもちろん面白かったし、ほかの芸人と比べても頭一つ抜けているように見えて安定のファイナルステージだった。
ファイナルステージのネタは「町中に逃げたサルを捕まえたい」
ファーストステージはとてもベタなネタだったが、ファイナルステージのネタは錦鯉にしかできないであろう素晴らしいネタだった。意外とスタートダッシュが苦手な錦鯉だが、このネタは比較的早めに笑いが起きており、特筆すべき点は2つ。
ひとつはサルを捕まえるために自分で置いたバナナを取りに行って捕まってしまうというボケ。これはそのままではそこそこしか受けていなかったが、なんと同じボケをほぼ同じように3回連続でしたのだ。さすがに3回目を見たときにはそのしつこさとくだらなさから思わず笑ってしまった。笑わせたもん勝ちのお笑い界、錦鯉の勝ちである。
そしてもうひとつ、家の中にいたお爺さんをサルと間違えてしまい乱暴に投げ捨てた長谷川さんに対して、渡辺さんが「お年寄りにはこうやってやさしくしろよ」とお爺さんを寝かせるパントマイムをしながらつっこむ。それがただのツッコミではなく、最後の最後に渡辺さんが長谷川さんを舞台に優しく寝かせるという、伏線回収ボケにもなっているのだ。これは長谷川さんが50歳という年齢もあり、より面白く感じる。
ファイナルステージで大声を出し、44歳と50歳の2人が汗だくになりながら思い切りふざけ、そしてお客さんが大笑いする。お笑い本来のくだらなさを見せつけられたら、審査員は錦鯉に票を入れるしかないだろう。
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