石黒浩が開拓する「ロボットと人間」の尖端──アバターで働き方を変える“仮想化実世界”とは?
#インタビュー #アンドロイド #メタバース
顔なしのアバターはアリかナシか?
──本の中でブイストンが開発・販売する高齢者向けの赤ちゃんロボット「かまって『ひろちゃん』」の話がありました。頭はあるけれども目鼻のような顔(表情)がない「のっぺらぼう」のようなロボットのほうが、顔があるタイプよりも好まれる、と。顔がないほうが使い手の想像を促し、それがポジティブに働くことで、顔があるタイプよりも若干幅広く受け入れられる傾向がある。ただ、顔があってもなくてもいいのであれば、VR空間上のアバターも顔がないものがあってもよさそうなのに、聞いたことがありません。CGで作るアバターで顔なしは受け入れられがたいのでしょうか?
石黒 ひろちゃんは赤ちゃんなんだよね。赤ちゃんの顔はユニバーサルな顔というか、大人に比べるとバリエーションがあまりない。だから、顔なしで成立している部分があるのかもしれない。僕らは性別も年齢もわからないアバターを今作っていますし、過去には近い発想に基づくテレノイドやハグビーのようなコミュニケーションデバイスも作ってきました。でも、どんな見かけであっても顔だけまるまるなくすのはやりすぎかなと。実空間でもCGでも、例えば、オッサンの体なのに顔だけなかったらキモイと思うんじゃないかな。
──そうですか(笑)。なんでもかんでも顔がないほうがいいケースばかりではない、と。
本の中では、人間に機械で作った「三本目の腕」を付けて、脳でそのロボットアームを操作するBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)の研究の紹介もありました。アバターというと人間と同じ見かけを想像しがちですが、そうじゃない姿のものもありうるし、人間は3本腕がある身体であっても動かせてしまうということですよね?
石黒 「三本目の腕」は研究室の西尾修一特任教授が研究しているものですが、人間の脳は「両手両足2本ずつ」のようなものではない身体をどこまで許容して動かせるのかを探る、チャレンジングなものです。
アバターやロボットアームのような技術を使うと、人間はケガや体力低下などで失われた健康な身体を取り戻すだけではなくて、運動能力や行動、環境に作用する力を多様に増やしていけるはずなんです。手や足を増やしてもいいし、脳から直接的にネットを操作してもいい。訓練すれば、ある程度どんな身体、どんな機能でも脳がコントロールできるようになるんじゃないかと。身体を機械に置き換えることによって、生身の身体が持つ制約から解放された活動が行えるようになることを示したかった。
──これから実現させたいアバター社会の姿が、この記事の読者にも少し見えてきたのではないかと思います。
石黒 インターネットビジネスの覇権はアメリカにもっていかれてしまったけれども、ロボットやCGアバターを使った実世界の仮想化に関しては日本がリードしていく状態を作りたいと真剣に思っています。2025年に向けて今後もさまざまな発表があると思いますが、ぜひ注目していてください。
石黒 宏(いしぐろ・ひろし)
ロボット工学者。大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授(栄誉教授)。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者。2011年、大阪文化賞受賞。2015年、文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年、立石賞受賞。2021年、オーフス大学名誉博士。
著書に『ロボットとは何か 人の心を映す鏡』(講談社現代新書)、『どうすれば「人」を創れるか アンドロイドになった私』(新潮文庫)、『僕がロボットをつくる理由 未来の生き方を日常からデザインする』(世界思想社)など。
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