石黒浩が開拓する「ロボットと人間」の尖端──アバターで働き方を変える“仮想化実世界”とは?
#インタビュー #アンドロイド #メタバース
夏目漱石や渋沢栄一そっくりの「偉人アンドロイド」の制作や、日本テレビで活躍するアンドロイドアナウンサー・アオイエリカなどの画期的なロボット/アンドロイドの開発・研究で知られる大阪大学の石黒浩教授が、新刊『ロボットと人間 人とは何か』(岩波新書)を刊行した。2025年に開催される大阪万博のプロデューサーのひとりでもある石黒氏が今もっとも注力しているのは、遠隔操作するアバターに関する研究やサービスだという。一見、遠いように思えるEVやメタバースとロボット/アンドロイド研究が交錯する未来は近い──!? 石黒氏に訊いた。
「アバターで働く世界が作れる」と確信
──最近、特に注力していることは?
石黒 アバター技術を使ったプロジェクトですね。そのために今年AVITAという会社も作りました。これはタイミングがいくつも重なったことが大きい。
僕はこれまで人間が操作することなく振る舞う自律ロボットも研究してきたし、特定の人物そっくりのアンドロイドである「ジェミノイド」のような遠隔操作ロボットを作ることもしてきましたが、アバターは後者の流れのものです。
まずひとつめのきっかけは、内閣府が主導するJST(独立行政法人科学技術振興機構)の「ムーンショット型研究開発事業」の目標のひとつとして「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」を掲げたプロジェクトの募集があり、「これは僕が作るべき世界だ」と思って手を挙げたことです。結果、PM(プロジェクトマネジャー)に選ばれ、いくつもあるムーンショットの中でも最大規模の39人の研究者と一緒に進めています。
もうひとつは新型コロナウイルスの流行です。ムーンショットの応募自体はコロナの前にあったし、実はアバターの研究は2010年頃にもブームになっています。遠隔操作でアバターを使って、例えば本人は中年男性でもアバターは子どもみたいな姿形をしているような「違う見かけ」で働いたほうが、好意的に受け入れられたり、操作する側も積極的に振る舞えたりするというポジティブな効果が得られる傾向があることは、僕らがこれまでの研究で少しずつ実証してきていました。でも、10年前にはリモートで働くことを企業が認めてくれなかった。つまり、あとは社会がどう受け入れるかがボトルネックだと思っていたんです。
ところが、コロナ禍によってリモートワークが一般化し、同時にVRを使ったサービスが流行して「メタバース」と騒がれるようになったことで、「アバターで働く世界が作れる」という確信が高まった。
ムーンショットでは社会のさまざまなシーンで実証実験を繰り返し、また、AVITAでは企業としてサービスを提供していくことで、アバターで人々の働き方を変えられると思っています。
さらに万博もある。2025年にはムーンショットの中間評価があると同時に、僕がプロデュー
サーのひとりを務める大阪万博が開かれます。ここでは、たとえコロナが収束していなくても大丈夫なように開催しないといけない。そのためにもアバターが必要になる。万博では日本の技術を世界に広めたいわけです。日本発のロボットやCGのキャラクターと技術とインターネットサービスを組み合わせた新しい世界をプレゼンテーションできる、コロナ禍後で最大の国際イベントとして成功させたい。
だから今は、2025年前後に向けて研究を収斂(しゅうれん)させていこうと気合いを入れて取り組んでいます。
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