“霞ヶ浦のダイヤモンド”シラウオ、AI技術によるブランド化でサステナブルな漁業に
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DX化の支援事業を行う株式会社imaと、シラウオの漁獲量全国2位を誇る茨城県行方市は、シラウオの鮮度を客観的に評価するAIの開発、認証制度の構築に取り組む「霞ヶ浦シラウオ×AI」プロジェクトを始動させた。
本プロジェクトで霞ヶ浦シラウオの付加価値を高め、新たな販路開拓、市場価格へのアプローチを行うことで、漁獲量頼みの経営に変革と水産資源の有効活用を目指すという。
シラウオ漁の課題をAIで解決
「千葉県の境の近く茨城県南東部の霞ケ浦沿岸に位置する行方市は、日本で2 番目に大きい湖である霞ヶ浦と北浦という2つの湖に挟まれ、半島のように湖に囲まれた街。冷凍技術が発達してなかった時代から水産業が盛んで、ワカサギやシラウオといった淡水魚の漁業と佃煮などの水産加工業が営まれてきました」とは、行方市の鈴木周也市長。
高級魚として知られるシラウオだが、近年は食文化の多様化などを背景に湖魚(かわざかな)の国内市場の減少や価格低迷が常態化し、漁業者の高齢化や担い手不足による漁業者の減少などの課題を抱えている。
また、行方市周辺のエリアには魚市場がなく、水産加工業者など販路も限定的で価格の変動が少ない。そのため多くの行方市の漁業者は漁獲量頼みの経営となっているのが現状もある。
「国内の漁獲量も全体的に減少傾向で、SDGsの達成に向けた取り組みが推進されているなか、適切な水産資源の管理の必要性も増しています。行方市ではできる限り大量に魚を獲り、安く提供するだけではなく、持続可能な地元漁業・水産業のかたちを模索してきました」(鈴木市長)
「霞ヶ浦シラウオ×AIプロジェクト」はAI 技術でシラウオの鮮度や品質を判定。漁獲されたシラウオの高付加価値化を図ることで、漁業従事者の所得向上と水産資源管理によるサステナブルな漁業を目指す取り組みだ。
本プロジェクトを統括するima社の代表取締役・三浦亜美氏は、都内に近い地理的な強みを活かし、鮮度の良いシラウオのブランド化を推進。高級飲食店などへの直販・当日配送など新たな販路開拓に注力している。
「霞ヶ浦は東京まで小1時間の距離で、東京で消費されるシラウオの多くは霞ヶ浦のもの。江戸時代には徳川家康への献上魚だった歴史もあります。シラウオの産地として有名な青森県小川原湖、島根県宍道湖とは数倍の価格差もあり、この価格差を埋めていきたい。客単価5000円~1万円の飲食店や1万円~3万円の飲食店で仕入れ価格やメニュー価格などをヒアリング調査中で、強いニーズを感じています」(三浦氏)
一次産業への幅広い応用へも期待
AI によってシラウオの鮮度・品質を客観的に評価するシステムを構築にあたっては、ima 社とAI を用いたビジネス構築を支援する株式会社KICONIA WORKS社が連携。
大量のシラウオの画像データをもとに、目利きのある漁業者の知見をもってアノテーション(等級ラベル付け)を実施し、収集した学習データからAIによる分類モデルを作成した。
「天候に左右される太陽の光や温度の関係で撮れる画像が変わってしまう可能性があるので箱にしている。真っ暗な箱の中で一定の光を当て、均一なデータが取れる状況・環境で撮影しています。まずは箱型の映像装置に人の手で出し入れする形ですが最終的には資金を投下し、流れ作業でベルトコンベア化を目指しています」
さらにAIの客観的評価によるS/A/B/Cの4段階の認証制度を創設。来年7月に始まるシラウオ漁から客観的評価を経たシラウオが市場に流通させる予定だ。
「AIによる品質鑑定を行なった証として認定ステッカーを各パッケージに貼る仕組みです。それぞれのランクで価格差をつけて販売していきます。漁獲量の上位何%がSクラスというかたちでの出荷ではなく、あくまでAIの真摯な目利きで判断していく。生食は特級のSをおすすめするイメージで、基本的には調理方法によってランクごとにおすすめして提供していきたいと思っています。シラウオにも“当たり年”ができてくるかもしれません」
今後は茨城県の農林水産部や近畿大学の農学部水産学科、東京農業大学の生物産業学部とも連携。行政や専門家によるチーム体制を構築し、データによる品質評価から更なる品質向上や知財などの面でも、漁業経営支援に取り組む。
行方市の漁師で、なめがた地域活性化協議会会長の伊藤一郎会長は「霞ヶ浦の環境を守り、限りある水産資源を次世代に繋いでいくことが私たちの役目。この新たな取り組みにより漁師を目指す若者が増え、地域に賑わいをつくっていきたい」と語った。
シラウオに限らず漁業や農業など同様の課題を抱える一次産業への幅広い展開も視野に、品質を客観的判定で付加価値を向上させる取り組みは注目されそうだ。
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