『M-1』の“熱狂”にライブシーンの芸人が抱く違和感
#M-1グランプリ #錦鯉
熱狂の中で本来やりたかったことを見失っていく
決勝まで勝ち進める芸人は一握り。
自分が負けたにも関わらず勝ち進んだ同業者を祝福する心理とはなんなのか。
本当は悔しくて仕方なくて、自分が落とされた結果に納得いってないのだが、時代の風潮に合わせて表面上「おめでとう!」と言っているのだろうか。いや、そうであってほしい。
と、一同業者としては強く思うのだが、ぺこぱ決勝進出を祝う動画を見た後ではそうは思えない。
みんな、「表面」を取り繕っている間に心まで蝕まれてしまったのではないか。
ライブシーンを中心に活動する芸人とファンは、『M-1』という壮大な“文化祭”で結果が出るまで共に走り、敗退と同時に公開プラトニックセックスを見せつけ、共に果てる。
これが毎年恒例の行事になり、特に疑問も違和感も持たなくなったとき、ライブシーンの芸人は本来やりたかったことを見失う。そして『M-1』予選の結果が出るたびに、無名芸人の解散と引退が繰り返し発表される。
「熱狂」の中でいつ終わってしまうかわからない「火遊び」に興じる芸人とファンはそれでいいかもしれない。筆者自身、18年の芸歴の中で「思い出づくり」を公言し、すぐに辞めていった芸人も少なからず見てきた。
ハライチ岩井のギラギラした目に「ケンカ」を見た
僕は今年、12年ぶりに一回戦で敗退した。2015年『M-1』王者・トレンディエンジェル斎藤さんに「今年のM-1優勝候補!」と深夜番組で紹介されたのは5年前。
この世界に入って一番最初に話しかけてくれた先輩と、時間の融通の利く水道検針のアルバイトを紹介してくれた先輩のコンビが優勝し、出ているほとんどが知り合いと後輩だらけの『M-1 2021』は、初めて心の中をマドラーでぐっちゃぐちゃにかき回されたような感情で見なくてはならない大会だった。
時代の風潮に流されたのか、大人として当然の行為なのか、迷いに迷って、この世界で最もお世話になった優勝コンビに「おめでとうございます」とLINEした。
寝る間もないほどの、チャンピオン翌日からのスケジュール。既読はついたが返信はない。このままずっとなくていい。
『M-1』の感染力はこの20年で取り返しのつかないくらい強大になった。
ラストイヤーの敗者復活戦、20年前にタイムスリップしたかのようにギラギラした目で睨みつけるハライチ岩井氏が、確立された「競技」のなかで「ケンカ」の時代に戻そうともがいているように見えたのは錯覚だろうか。
決勝に出た芸人のレベルの高さは筆者がここで書くまでもない。
決勝を夢見て、夢敗れて辞めていく芸人と、ほかに活路を見出し自活していく芸人がほとんどだ。
ライブシーンという歪な世界でしかネタをやれない現状で、この場所くらいはいつか見た「ケンカ」の世界であってほしいと願う筆者は、先日ライブのアンケートで37歳にして「老害」と書かれたのであった。
■プロフィール
エル上田(える・うえだ)
1984年生まれ、神奈川県出身。2009年、エル・カブキ結成。2014年「NHK新人お笑い大賞」本戦出場、2016年「第16回決戦!お笑い有楽城」優勝。2017よりYouTubeチャンネル「エル・カブキの今日の10分おろし」にて毎日時事ネタを配信中。2021年にフリーランスとなり、現在も日々ライブに出演している。
ツイッター:@el_ueda
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCKhxi7QByWwlZpymz8Oitig/featured
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