泰葉の「フライディ・チャイナタウン」とアメリカが失くしたノスタルジー シティポップブームの現在地
#音楽 #インタビュー
「シティポップ」ブームに透けるアメリカの変容
────なるほど。ヴィジュアル面ではアニメとシティポップのマッチングの絶妙さがウケているということでしたが、音楽的にはどう評価されているんでしょうか?
小鉄 もちろん、音楽としての素晴らしさが評価されている、というのは前提にあると思います。日本のレコード会社も羽振りが良かった時代の、良い意味で職業的なミュージシャンたちによって贅沢に作られたウェルメイドなポップスが、完成度の高い音楽として迎えられている、という。
ただ、ここまで大きいブームになっているのは、音楽だけでなく、ノスタルジーと異国情緒という面もあると思います。日本っていうのはやっぱりまだまだ、外国から見ると、良くも悪くも不思議な国に見られてるんじゃないかと。
これは個人的な推測ですが、ノスタルジーと異国情緒って近しい感覚だと思うんです。平成生まれの自分が、子どものころ『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)、『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)に端を発するレトロブームに触れた時って、その両方が混ざったような感触だったんです。原体験として見てはいないんだけど、なんか不思議な懐かしさ、みたいな……。なおかつ、アメリカにとっては、ノスタルジー≒異国情緒の欲望の落としどころとして「日本」がちょうどいいんじゃないかと。普通に「古き良きアメリカ」を夢見るには、21世紀に入ってからのアメリカはもう不可逆的に変わり果ててしまった(だからこそトランプ前大統領の「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」というキャッチコピーが熱狂的に支持されたのでしょうが)。80年代、成長し続ける資本主義、デジタル産業、MTVにコカコーラにカセット・ウォークマン……こう言ったきらびやかな時代、ライフスタイルをそのままリアルに自国の歴史上で夢想しても、すぐに現代に立ち返ってしまい、没入できない。
そこに「日本」という東洋の不思議な国をフィルターとして通すことで、ヴァーチャルな懐かしさ(ノスタルジー≒異国情緒)がすんなりと受け入れられ、楽しめる……という構造になってるんじゃないかなあ、と思いますね。
「フライディ・チャイナタウン」のFuture Funkリミックス。『らんま1/2』のシャンプーのイラストは”外国から見た誤解/誇張された日本のイメージ”そのもの?
小鉄 あと「フライディ・チャイナタウン」の「It’s So フライディ……」という歌いだしの「フライ」の部分、fri(実際の「フライディ・チャイナタウン」の英語表記タイトルはfly-dayという造語になっていますが)を「フ・ラ・イ」って3つの音節に分けるのって非常にカタカナ英語的なんじゃないかと思うんですけど、英語圏の人が聴くとそういう響きも面白かったりするのかな?と思ったり。そういう、かなり屈折した眼差しが、海外のシティポップ・リバイバルには含まれているんじゃないでしょうか。もちろん、単にSNSで流れてきた知らない良い曲やかわいい・カッコいいアートワークに反応して純粋に楽しんでるんだけだ、という人がほとんどでしょうし、アジア圏でもシティポップ・ブームは波及してるから、全部が全部そういう理由では説明できませんが。
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日本においてリッチな音楽制作が叶えられていた時代のポップスが、アメリカの文化的背景の変容によってすくいあげられている状況は非常に興味深いのではないだろうか。今後もシティポップブームの行く末に注目していきたい。
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