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世界は映画を見ていれば大体わかる#26

HBO『スポーツ国家の不条理』米国スポーツ界の根底にあるマイノリティの劣悪な環境

移民を低賃金で食い物にするアメリカ競馬界

 日本で競馬は大人気だがアメリカでも強い人気を誇っている。だが競馬を陰で支える厩務員の存在はあまり知られていない。脚光を浴びるのは一握りの騎手、調教師、馬主。だが馬を育成し面倒を見ているのはほぼ厩務員だ。そんな厩務員の多くは移民のラテン系、もしくはアフリカ系。白人は3K仕事の厩務員なんてやりたがらないからだ。興味があるのはレースで走っているところだけ!

 この競馬業界がピンチだという。移民がいなければ競馬産業はほぼ成り立たないのに、移民の受け入れを制限する動きが近年、強まっているからだ。理由はもちろんトランプ大統領時代の移民排他政策。

 アメリカの移民制度は3種で構成される。

 ひとつ目は家族ベースの移民。家族、親戚のつながりで移住してくるケース。ふたつ目は人道的ビザの移民。亡命や難民の移住が認められるケース。みっつ目は雇用の移民。

 これはさらにふたつに分かれている。永住権が認められて雇用される場合と一時的な就労を認める場合。例えば農作物の収穫は季節があるので、繁忙期にだけ雇用される。それが済むと帰国。それらは「ゲスト労働者」と呼ばれ、アメリカの労働力を支えている存在なのに立場は不安定。

 移民厩務員は危険が伴う上に専門職なのに稼ぎは少なく、発言権もない。馬主や調教師は稼いでいるのに。アメリカの経済の根底を支えているのは移民なのに、大統領がアメリカに来るな(もともと移民の国だろ)っていってんだから、やってられないね。

 2020年アメリカ上院議員選挙、激戦区のジョージア州では改選の一議席、補欠の一議席の計2席が争われた。補欠の一議席を争ったのは、共和党のケリー・レフラー上院議員。ニューヨーク証券取引所を傘下に持つインターコンチネンタル取引所のCEOを夫に持つ「ウォール街のパワーカップル」であり、WNBA(女子プロバスケリーグ)のアトランタ・ドリームのオーナーでもあった。

 対抗馬は民主党のラファエル・ワーノック。彼はキング牧師の教会の牧師だ。資金が豊富で地盤もあるレフラー議員相手には、役者不足の感が否めない。とはいえジョージア州アトランタは公民権運動発祥の地だ。

 ワーノックを支持したのはWNBAの黒人選手たち。ブラック・ライブズ・マター運動が起きた時、彼女たちは黒一色のシャツに、”BLACK LIVES MATTER”と白字で書かれたシャツを着用し、社会正義を訴えた。その動きに反感を示したのがレフラー議員で「団結してスポーツから政治を排除せよ」と言い出した。大半の選手が黒人のWNBAで、黒人女性選手の声を富裕層の白人女性が押さえつけようとする図式は、あまりにも分かりやすすぎた。

 アメリカスポーツ界で批判に晒されがちな黒人の、しかも女性というWNBAの選手たちは戦いを決意する。抗議メッセージを掲げた選手たちに、WNBAは罰金を科したが選手たちは「誰にも議論の邪魔はさせない」と宣言。そちらが団結して排除するのなら、こちらも団結して戦うまでだ。各チーム統一で取った戦略に恐れをなしたWNBAは、罰金を取り消した。

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