映画『彼女が好きなものは』「創作物」と「現実」の両面から同性愛を説いた理由
#神尾楓珠 #山田杏奈
渡された宿題と、これからの希望
本作で導かれる結論は決して一筋縄なものではない、観る人それぞれに「これからあなたはどうしますか」と「宿題」を渡されたような余韻も残る。
それは、冒頭では主人公のナレーションで「物理(の授業)では摩擦はゼロとしている」「そうして世界を簡単にして事象を読み解こうとする」などと冷静に考えていることからわかるだろう。この世のあらゆる事象、特に同性愛にまつわる当事者の苦悩や問題は、「何かを見ない」まま簡単に解決してしまえるものではない、極めて複雑な事情が絡んでいるのだ。だからこそ、劇中で起こる悲劇からは「そうならないため」の手段を観た人それぞれが考えられるだろうし、同時に同性愛者に限らず多くの人が幸せに生きていくための希望も得られるはずだ。
また、本作は映画『ビッグ・フィッシュ』(2003)にも似たテーマを描いているとも言える。そちらは「ファンタジックな要素で装飾した嘘の物語」と「真実を包み隠さずに示した物語」の両方を肯定し、それをもって「人はなぜ物語を必要とするのか」というある種の「物語論」を説いていた。『彼女が好きなものは』はそれをBLという創作物をもって提示しているとも言えるのだから。
また、映画では冒頭で「ソーシャル・ディスタンス」というワードが登場する。これは草野監督が脚本の初稿はコロナ禍前の2019年に書いてたものの、最初の緊急事態宣言の頃に書き直しをした時点で加えた言葉だという。それは「現在進行形の差別や偏見を扱っている題材である以上、過去の話にはしたくなかった」「この先いつ観ても『コロナ以降』の話になっていればいいなという思いを込めて、最初の10秒で最大の嘘をついた」と意向によるものだという。
筆者個人の主観ではあるが、これまでの同性愛者やセクシュアリティに対する日本の認識は、現実においても創作物においても「まだまだ発展途上」と思っているところもあった。もちろん、マンガから映像化された『きのう何食べた?』や『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』など、BLや同性愛を誠実に描いた作品は広く親しまれるようになってはいるが、まだまだその「理解」を広げる必要は間違いなくあるはずだ。その最前線である、誠実に同性愛者へ向き合ったこの『彼女が好きなものは』を、改めて1人でも多くの人に観てほしいと心から願う。
また、映画を観た後でも前でも、ぜひ原作小説を併せて読んでみてほしい。本作が映画として見事に物語を換骨奪胎してまとめあげていること、映画で追加された要素もまた尊いことなど、新たな気づきや感動があるだろうから。映画でも少しだけ登場していたロックバンドのクイーン(HIV感染で亡くなったボーカリストのフレディ・マーキュリー)への言及も、重要な知見を与えてくれるだろう。
『彼女が好きなものは』
12月3日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
C)2021「彼女が好きなものは」製作委員会
神尾楓珠 山田杏奈
前田旺志郎 三浦獠太 池田朱那
渡辺大知 三浦透子
磯村勇斗 山口紗弥加 / 今井 翼
監督・脚本:草野翔吾
2021年/日本/121分
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