映画『彼女が好きなものは』「創作物」と「現実」の両面から同性愛を説いた理由
#神尾楓珠 #山田杏奈
神尾楓珠や山田杏奈が切り取る青春のマジックと、重要な「笑い」の要素
本作は実写映画化した意義もとても大きい。その筆頭は、実力派の若手俳優たちの熱演とアンサンブル。彼らの奮闘によって、青春のかけがえのない瞬間を切り取る「マジック」が起こっていた。
神尾楓珠は話題作に続々と出演しているが、主演は本作が初。そうとは思えないほどに堂々と、そして繊細に、ゲイであるが故の苦悩を持つ少年を演じ切って見せた。「建前上は女の子と真っ当に付き合おうとするが、実は愛情を持つことができない」という「割り切れなさ」を完璧に体現していることも素晴らしい。目を引く美しいルックスをかなぐり捨てたかのような、顔を歪ませ嗚咽し心情を吐露するシーンにも、圧倒されることだろう。
実力派女優として他の追随を許さないほどの活躍を続ける山田杏奈は、直近の『ひらいて』の「ずるい子」とは正反対の、これまでも得意としていた「ほぼ完全に天真爛漫」な方向性の女の子に扮している。世間から疎まれようともBLが好きで好きでしょうがなくて、それを自虐的なギャグに変えたりする愛おしさがたまらないし、だからこそ彼女が目の当たりにするショッキングな事実がより共感を呼ぶ。彼女が終盤に取ったある行動も、山田杏奈というその人の魅力があってこそ、さらに胸に迫るようになっていた。
さらなる注目は、直近で映画『キネマの神様』や『うみべの女の子』にも出演していた前田旺志郎。彼が演じるのは、青春映画恋愛では定番とも言える、主人公の恋路を応援してくれるマジでいいヤツ……いや、もはや全ての映画において頂点に達するほどの、主人公の気持ちに寄り添い、周りを明るく元気にしてくれる、最高の親友に見事にハマっていたのだ。『映画 聲の形』(2016)のぽっちゃりな親友にも似た役割も与えられているので、そちらが好きな方にも是が非でも観てほしい。
セクシュアリティを偽っていた主人公へ牙を向けてしまう少年を演じた三浦獠太も、映画初出演であることが信じられないほどの、「本当にこの世にいそう」に思えるほどの若者を見事に演じている。彼も自身の「正しさ」を持っているがゆえに誰かを傷つけてしまう、重要な存在だった。
映像化自体に大きな意味があると感じたのは、教室で同性愛やセクシュアリティについてディスカッションをするシーン。そこでは生徒ひとりひとりが建設的な意見を述べているし、同性愛が異常なんて言う者は1人もいないのだが、どこか「表面的に見える」。もちろん彼女彼らは強制的に言わされているわけでもなく、しっかり自分の意思で言葉を選び発言しているはずなのだが、どこか他人行儀で綺麗事を言っているようにも思えてしまうのだ。その「空気」があるからこそ、(主人公を傷つけた本人であるはずの)三浦獠太の言葉は、この映画を観る人にとって強烈なまでに響くだろう。
さらに、劇中ででもっともエモーショナルなシーンが「笑える」というのも、本作の素晴らしいところだ。日本映画では、悲しいシーンでウェットに「泣け」と言わんばかりの過剰な演出をしてしまうことも、残念ながら多い。だが、本作はその「逆」こそが真に感動に呼ぶのだと教えてくれる。山田杏奈のBL大好きな女の子や、前田旺志郎演じる親友が、劇中の辛い出来事を覆い隠す、いや覆すようなギャグを言ってくれたりすることに、主人公への多大な愛情を感じるし、はたまたこの残酷な世界に対抗する術を教えてくれるようだったのだから。それらの言動に対して、神尾楓珠がツッコミを入れたりする「気兼ねなく言い合える関係」は、もう一生見ていたいほどの尊さに満ちていた。
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