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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > インタビュー「グラミー賞の仕組みと実態」

グラミー賞は政治とカネ、それでも夢がある――ある日本人ソウル・シンガーの挑戦

アーティストがアートに専念できる環境が整ってほしい

――Nao Yoshiokaは日本人でソウル・ミュージックを歌っているわけですが、cultural appropriation(文化の盗用)みたいなことは最近問題になるじゃないですか。その辺って敏感になると思うんですけど、どうですか?

山内 今まで僕たちは差別を明確に受けたことってあんまりないんですよね。Naoのインスタのファンとかも、アフリカンアメリカンが30%ぐらい。めちゃくちゃ多いんです。現地でライブやったら、涙して泣いてくれる人がいたりとか、ポジティブなことしかなくて。1回だけあったのが、ワシントン・ゴーゴー*をやってバズった時に、2割ぐらいがネガティブな反応で。「盗作した」って話になったりもしましたね。でもオーセンティシティ(真摯さ)を保つというか、リスペクトをもってちゃんとマナーをわきまえてやるっていうことが大事なのかなと思ってます。

*……ワシントンDC発祥のファンク・ミュージックの一種。チャック・ブラウンらによって広められた。

――注目されると、どうしても批判も出てきますよね。

山内 そうなんですよ。だからある意味、称賛かなって。仕方ないかなっていう感じではあります。でも、エリック(・ロバーソン)とか、ロバート・グラスパーともNaoは仲良くなりましたけど、そういう業界のプロフェッショナルたちによる差別を受けたこともないですね。

 あとはNao自身がもうスーパーマイノリティっていうのがあって。彼女のバックグラウンドで言うと、鬱で高校を辞めて、アメリカにひとりで行ってソウル・ミュージックを好きになって。日本でも英語だけで歌って……日本でそんな子の枠なんてないじゃないですか(笑)。かと言って、アメリカに行ったら今度はアジア人でソウルを歌ってるから、めっちゃマイノリティだし。でも、何かそういうマイノリティとしての気持ちを歌った時に、アフリカンアメリカンの人はめちゃくちゃ共感してくれるんですよ。

 それに、たとえばエリック(・ロバーソン)の前座とかやるじゃないですか。トコトコって出ていくと、「誰だアイツ」みたいな感じになるんですよ。でも、歌ったら「すごいじゃん!」みたいな。Naoも、最初は日本人であることはやっぱり難しいのかなと思ってたのを、個性と切り替えて、強みにしていけたので、そこがひとつのブレイクスルーにもなりました。

――そんなNaoさんも、デビュー曲“Make the Change”を出して10年になるんですよね。この10年、成し遂げたものは数々あったと思うんですけど、ここが転機だったなとか、達成感を感じられた功績とかありますか?

山内 いくつかあるんですけど、まずターニングポイントで言うと〈Capital Jazz Fest*〉への出演がでかいですね。

*……1993年から続く、ジャズ~R&B~ソウルなどの伝統ある屋外音楽フェス。Nao Yoshiokaは2016年、日本人として初めて同フェスに出演し、2万人規模のステージでパフォーマンスした。なおこの年はアイズリー・ブラザーズ、トニ・ブラクストン、レイラ・ハサウェイ、SWV、マーカス・ミラー、テイク6らも出演した。

 ただ、個人的には、4枚目の『Undeniable』を作った時にDJジャジー・ジェフ*のスタジオに行ってヴィダル・デイヴィスと一緒にミックスをしたこと。人種とか関係なく、本当に自分が憧れていた人たちと対等に音楽を作れた瞬間でした。

*……ウィル・スミスとのヒップホップ・デュオ=DJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンスとして80年代後半~90年代前半に“Summetime”などの数々のヒットを放ったDJ/プロデューサー。ヒップホップのメインストリーム進出に貢献したパイオニアのひとりであり、90年代後半~00年代初頭に起こった「ネオ・ソウル」ムーヴメントにおいて大きな役割を果たしたことでも知られるレジェンド。

 あとは海外バンドを日本に呼んで2019年にツアーした時、国境や人種、ジャンルとか関係なくステージ上でつながったみたいな瞬間があって。なんか「やりたいことできたな」って感じがありましたね。自信もつきました。ジャジー・ジェフのスタジオに行って、ジェフの家に招かれて一緒に飯食うとか、それがどれだけこのマーケットにおいてすごいことかってのは、日本でなかなか伝わらないですけど、アメリカの人でもなかなかできないことなんですよ。しかも、ジェフはタダでスタジオを使わせてくれたんです。音楽聞いたら「めっちゃいいじゃん」って言って。なんかそういう、“コミュニティに入れた”っていうのはでかいですね。

――仲間だと認めてもらえたということですね。最後に、今の日本には海外を意識してる若いアーティストも多いと思うんですけど、もしインディペンデントでやってる人たちに何かアドバイスを送るとしたら、何をまず最初に伝えますか?

山内 今、課題に感じているのは、アーティストがSNSのマーケティングに割く時間が多すぎること。世の中的にはマーケティングも自分でできる時代だし、それが良いという風潮があるんですが、じゃあそれで作品のレベルがすごい上がってるか?っていうと……。

 音楽を高めることにちゃんと時間を割けるかどうかが、アーティストとしてのオーセンティシティを保つ秘訣。だから、周りの人がアーティストを支えて、SNSだったりマーケティングでアーティストの時間を奪わないことのほうが僕は大事だと思ってるので、アートに割く時間とかセンスを磨く時間、追求する時間を増やしてほしいですね。海外ってデジタルマーケターたちが音楽を商材に会社を建てていて。日本も「僕たちがデジタルをやるから、君はアートに専念しなさい」っていう文化になっていってほしい。だからアーティストというより、周りの人たちですね。アーティストの周りの人たちの意識がどれだけ高いか。これに尽きると思います。

 

グラミー賞は政治とカネ、それでも夢がある――ある日本人ソウル・シンガーの挑戦の画像4
Nao Yoshioka

米国ビルボードUACチャート最高32位、2019米国オフィシャルインディーズソウルチャート1位の実績を持つ。NY仕込みのパワフルなヴォイスと表現力、ヒストリーに根ざしながらもレイドバックとは異なるモダンなテイストを兼ね備えた現在進行形ソウル・シンガー。
2016年にはアメリカの〈Capital Jazz Fest〉で2万人規模のメインステージに出演し、同年9月リリースの3rd『The Truth』ではアリシア・キーズらを支えた名プロデューサー/ライターたちと共作。2019年に4thアルバム『Undeniable』をリリース。最新作は、フィラデルフィアの伝説的なスタジオでアメリカのミュージシャンと一緒にレコーディングされたEP『Philadelphia Soul Sessions』(2021年)。
公式サイト:naoyoshioka.com Twitter:@NAO_WORLDWIDE Instagram:@nao_yoshioka

[ライブ情報]

Nao Yoshioka Tokyo Funk Sessions 2022
会場:ブルーノート東京
日時:2022年1月18日(火)
[1st show] OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd show] OPEN 19:45 / START 20:30
※2nd showのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:2022年1月21日(金)23:59まで
※アーカイブ配信の内容はライブ配信と異なる場合がございます。予めご了承ください。

パンデミックを乗り越えて、さらに進化したNao Yoshiokaが繰り広げるファンクセッションが実現。約1年ぶりのブルーノート東京登場となる本公演にはホーンセクションを加え、新年を盛り上げるアッパーソングやダンサブルなナンバーをスペシャルアレンジで届ける。東京の精鋭バンドと世界のNao Yoshiokaがワールドクラスの音楽で彩るソウル・ファンク・R&Bをご堪能あれ。
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/nao-yoshioka/

Nao Yoshioka Osaka Funk Sessions 2022
会場:ビルボードライブ大阪
日時:2022年2月7日(月)
[1st show] OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd show] OPEN 20:00 / START 21:00
※2021年12月15日(水)12:00 Club BBL会員先行予約開始
※2021年12月22日(水)12:00 一般予約開始

8月に発表したEPは、ライヴが減った中でも生バンドの凄みを体現すべくダイナミックな仕上がりに。そのリリース後には米国最大級のソウル系メディアで年間最優秀女性ヴォーカリストにノミネートされるなど、勢いの止まらないNao Yoshiokaが再登場!今回はホーンセクションを含む精鋭をそろえたファンク・セッションで、さらに深度を増した歌声を轟かせる。
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13170&shop=2

末﨑裕之(ライター/編集者)

ライター・編集者。音楽を中心に、俳優・ドラマ~映画の取材まで。共著に『新R&B教本 2010sベスト・アルバム・ランキング』(スペースシャワーブックス)。まれにラジオ出演(NHKラジオ第1、FM802他)、作詞(アイドリング!!!他)も。
Twitter:@hsuezaki

すえざきひろゆき

最終更新:2023/03/14 14:08
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