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今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリ

■ミュージカルは常にカウンターカルチャーであれ!
『tick, tick…BOOM!(チック、チック…ブーン!)』

今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリの画像6
Netflixより

<あらすじ>
1990年のニューヨーク。ウェイターをしながら、アメリカのミュージカル界で大物になることを夢見て作品を創作する30歳目前のミュージカル作曲家、ジョナサン・ラーソン(アンドリュー・ガーフィールド)。ブレイクのチャンスとなる公演を目前に控えたある日、ジョンはさまざまな要因によるプレッシャーで焦りを感じていた。ダンサーになることよりも、教師になる選択をする恋人スーザン(アレクサンドラ・シップ)、夢は諦めたが安定した職につき、経済的に余裕のある友人マイケル(ロビン・デ・ヘスス)、HIVによって、若くして亡くなっていく仲間たち。刻一刻と期限を迫られる思いのジョナサンは、人生の岐路に立たされる……。

 2021年のミュージカル映画界において、最も功績を残した人物はリン=マニュエル・ミランダと言っても過言ではないだろう。

 今年の7月に公開された『イン・ザ・ハイツ』(2021)の原作者兼プロデューサー、さらにその出演者のひとりとしても参加しているリン。アメリカで最もチケットの取れないミュージカルとして有名な「ハミルトン」の作者でもあり、2016年の舞台を映画として編集したものをDisney+で世界同時配信した。映画版『ハミルトン』は、本来であれば『イン・ザ・ハイツ』(2021)公開後の予定だったところを前倒ししたものである。

 そんなリンが初長編監督デビュー作品として制作したのが『tick, tick…BOOM!(チック、チック…ブーン!)』だ。映画化もされた「RENT」の作者として知られ、35歳という若さでこの世を去ったジョナサン・ラーソンの自伝的作品を手掛けるプレッシャーは、想像を絶するものだったに違いない。

 禁断の恋を描いた作品の下敷きとして、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」があるように、若き芸術家の苦悩を描くものとしては、プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」が下敷きにされることが多い。ジョナサンの代表的ミュージカル「RENT」は、そんな「ラ・ボエーム」に自身の体験を投影することで誕生した作品であり、登場人物のマークとロジャーはジョナサンの分身ともいえるキャラクターだ。

「RENT」も自伝的な部分がある一方で、エンターテイメントとしての側面を強調していることもあって、ジョナサン自身の芸術家としての苦悩や葛藤、時間というプレッシャーに押し潰されそうになる日々を描いた自伝的作品としては、やはり『tick, tick…BOOM!(チック、チック…ブーン!)』に軍配が上がるだろう。

 本作も自伝的作品であると同時に、社会問題を多く取り込んだものとなっているが、そもそもミュージカルには、若者目線からの社会へのメッセージを訴えかける作品が非常に多い。これは、ミュージカルが時代の問題点が強く反映される存在であるのと同時に、新時代への希望の提示にもつながるからである。

 カウンターカルチャーとは、ヒッピーの立場から反戦を描いた『ヘアー』(1979)や、白人の中に残る潜在的差別意識が変化する可能性を描いた『ヘアスプレー』(2007)、都合の良い場合にのみ振りかざされる宗教の矛盾点を描いた『ザ・プロム』(2020)など、主に60年代の社会構造に反発したものとして用いられるものではあるが、ミュージカルにおいては、今でもカウンターカルチャーの精神が生き続けている。

 本作の役者についても説明を加えたい。もともと舞台俳優であるアンドリュー・ガーフィールド、テレビ映画『Aaliyah: The Princess of R&B』(2014)でアリーア演じて話題になったアレクサンドラ・シップ、そして2011年の「RENT」ハリウッドボウル公演、FOXが2019年に放送した「RENT: LIVE」とジョナサン作品との関わりが深いヴァネッサ・ハジェンズ、舞台版「イン・ザ・ハイツ」などに出演するロビン・デ・ヘスス、ジョシュア・ヘンリーといった、“舞台感”を大切にしたキャスティングが目立つ。リンのこだわりが感じられると同時に、より芸術家としての立場に共感が持てる立ち位置の俳優を選んでいるからだろう。

 『tick, tick…BOOM!(チック、チック…ブーン!)』がアカデミー賞にノミネートされ、同時に『イン・ザ・ハイツ』もノミネートされると、リンにとっては、原作作品と監督作品が同時に賞を巡って争うことになる。どちらもミュージカル史上に残る傑作であることを大前提とした上で、賞レースとして、こんなにおもしろい構図はめったにない。それだけに、視聴率低迷が問題視されるアカデミー賞としては、この2作をノミネートさせる可能性は高いといえるだろう。

『tick, tick…BOOM!(チック、チック…ブーン!)』

【出演】アンドリュー・ガーフィールド、アレクサンドラ・シップ、ヴァネッサ・ハジェンズ
【監督】 リン=マヌエル・ミランダ
【Netflix視聴ページ】

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