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今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリ

■伝記系ミュージカルを左右するのは役者の演技と歌唱力
『リスペクト』

今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリの画像4
© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

<あらすじ>
少女のころから抜群の歌唱力で天才と称され、煌びやかなショービズ界の華となったアレサ(ジェニファー・ハドソン)。しかしその裏に隠されていたのは、尊敬する父(フォレスト・ウィテカー)、愛する夫(マーロン・ウェイアンズ)からの束縛や裏切りだった。極限まで追い詰められる中、すべてを捨て自分の力で生きていく覚悟を決めたアレサ。自らの心の叫びを込めたアレサの圧倒的な歌声は、やがて世界を歓喜と興奮で包み込んでいく……。

 ミュージシャンの伝記映画は、それが偉大な人物であればあるほど、どこを物語として切り取るかが非常に難しいといえるだろう。

 そのため、ダイアナ・ロスとシュープリームスの物語を下敷きとした『スパークル』(1976)や『ドリームガールズ』(2006)も、あくまで“フィクション”という立ち位置をとることで大胆なアレンジを可能にしていた。

 エルトン・ジョンの半生を描いた『ロケットマン』(2019)でも、1983年に発表された名曲「I’m Still Standing」で再起を果たしたように描かれているが、実際にはその後もアルコールに依存するなど、80年代は精神的に不安定であっただけに、映画ではいくらかのフィクション要素を含んでいる。それが悪いというわけではなく、そうでなければ映画の尺として物理的にまとめるのが難しいのだろう。

今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリの画像5
© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

 それは『リスペクト』の主人公、アレサ・フランクリンも例外ではない。それどころか、あらゆるミュージシャンの中でもかなりハードな経歴を持った人物といえるだろう。

 性暴力によって、10代で2度の出産を経験。母との死別、威圧的な牧師の父との関係など、歌手活動に至るまでの過程だけでも描く要素がありすぎるため、本作ではかなりざっくりと描かれている。

 公民権運動、女性解放運動も経験し、実際にメディアを通じて過激な発言を発信していたアレサ。目的はどうであれ、父や恋人から受けた暴力へのトラウマから、嫌っていたはずの“暴力性”が自分の中にもあることに気づく。そこからアルコール依存を経て、自分のルーツである神への信仰心に原点回帰していく様子も急ぎ足で描かれていて、アレサに関する知識がある程度なければ理解できない点も多い作品ではある。

 ところが、それを大きく補っているのが、アレサ役を演じるジェニファー・ハドソンの演技と歌唱力である。ジェニファーは幼い頃から教会で歌っていたこともあって、アレサの人生と重なる部分も多い。実際に、アレサの前座としてツアーを周っていた時期もあった。『ドリームガールズ』(2006)のオーディションで、ザ・ドリームズ(シュープリームスをモデルにした架空のグループ名)のメンバー・エフィー役を演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞。一方、2008年には家族が姉の元夫によって殺害されるという悲劇にみまわれるなど、ジェニファー自身の伝記映画が製作されてもおかしくないほどだ。

 さらにジェニファーにとって、アレサの心情を理解するための下準備は、偶然にも済んでいた。日本では未公開のケイシー・ケモンズ監督によるミュージカル映画『クリスマスの贈り物』(2013)である。

 威圧的な牧師の父から逃げ出した娘との関係修復を描いた作品で、アレサと父のC・L・フランクリンとの関係性にいくらかのヒントを得ている。父親役はフォレスト・ウィテカーだ。アレサをモデルにした同作のキャストを、逆に本家に起用したのもおもしろい試みだ。

 アカデミー賞においては、第79回の『ラストキング・オブ・スコットランド』(2006)のフォレスト・ウィテカー以降、黒人俳優は主演賞の受賞を果たしていない。今年、ほぼ確定とされていた『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)のチャドウィック・ボーズマンが受賞を逃した衝撃も大きかった。同作で、ジェニファーの演技は評価されなければならないだろう。

『リスペクト』を観てアレサのことをもっと知りたいと思ったら、こちらの映画を要チェック。公民権運動におけるアレサの心情については、ヒストリー・チャンネルで放送されたドラマ『ジーニアス:アレサ』(2021)を。原点回帰のための教会ライブはドキュメンタリー映画『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』(2018)を観てほしい。アレサを題材にした作品は数あるが、それぞれが足らない部分を補完し合っている。それこそが、アメリカという国がいかにアレサ・フランクリンというアーティストを愛していたかという証拠である。

『リスペクト』

【出演】ジェニファー・ハドソン、フォレスト・ウィテカー、マーロン・ウェイアンズ、メアリー・J. ブライジ
【監督】リーズル・トミー 
【公式サイト】gaga.ne.jp/respect
【公式Twitter】@respect_eiga

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