今年はミュージカル映画年!『ディア・エヴァン・ハンセン』『リスペクト』アカデミー賞候補ズラリ
#映画 #ミュージカル
新型コロナによって閉鎖を余儀なくされたニューヨーク・ブロードウェイが2021年9月、約1年ぶりに再開した。2020年の公演が中止になっていた『雨に唄えば』の日本公演も2022年1月に上演が決定するなど、ミュージカル界においてもようやく日常が戻りつつある。
暗い話題であふれている今だからこそ、社会問題や苦悩、葛藤に独自の見解を導き出してくれるミュージカルというエンターテイメントが、より求められている。これは映画界においても例外ではなく、第94回アカデミー賞にもミュージカル作品がいくつかノミネートされることは間違いないと断言できる。
特に2021年は、ミュージカルイヤーと言っても過言ではないほどの良作が揃った。多様性を求めるアカデミー賞にふさわしい作品がとにかく多いことも特徴だ。
ここで豆知識。映画の宣伝における「アカデミー賞有力候補」というのは、「アカデミー賞ノミネートor受賞」などのように、事実として確定されたものではない。あくまで宣伝会社、配給会社のさじ加減で付けることができるワードである。
それに倣って、現時点で筆者が「アカデミー賞有力候補」と思うミュージカル映画を、その理由とともに紹介したい。
※あくまで筆者がアカデミー賞ノミネートの傾向や映画界のトレンドなどを考慮して導き出した見解であり、確実性を保証するものではないのでご了承を!!
■真実が人を傷つけ、嘘が人を癒すなら、あなたはどちらを選択しますか?
『ディア・エヴァン・ハンセン』
<あらすじ>
エヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいる。ある日、自分宛に書いた“Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)”から始まる手紙を、図らずも同級生のコナー(コルトン・ライアン)に持ち去られてしまう。後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自ら命を絶った事を知らされる。悲しみに暮れるコナーの両親は、手紙を見つけ息子とエヴァンが親友だったと思い込む。彼らをこれ以上苦しめたくないエヴァンは思わず話を合わせてしまう。そして促されるままに語った“ありもしないコナーとの思い出”は人々の心を打ち、SNSを通じて世界中に広がり、彼の人生は大きく動き出す──。
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近年では、『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー』(2021)『ザ・プロム』(2020)など、SNSの存在を巧みに取り入れた映画作品が多くなってきている。
現代の若者たちを描くうえで、デジタルネイティブのZ世代が主人公になるのは当たり前のこと。時代やツールが変わっても、ティーンの抱える問題の本筋は変わっていないとも感じられる。
本作は『ヘザース/ベロニカの熱い日』(1988)、特に2009年に制作されたミュージカル版と共通性を感じる作品である。もちろん全体的な物語としては異なるが、自殺を扱い、ティーンの疎外感や絶望というテーマ性としては、共通する部分が多い。
生前は存在すら知らなかった人々にまで、その人物を死によって知り、聖人や象徴として扱われることは現代においても同じである。
例えばチェ・ゲバラが、キューバ革命のアイコンとして拡散されたことで、もともとの人間性や革命家しての功績よりも、本人からは切り離されたカリスマ性の方がポスターやフィクションとして人々の記憶の中に残り続けているのと同じように、本作では若くして自殺したコナーの存在がSNSで「自殺の防止」を訴えかけるアイコンのように拡散されていくが、そこにコナー本人は不在なのだ。
SNSやネットを通じて、他人と簡単につながれる環境になった一方で、虚像の人間を作り出すことがより簡単になっていることへの危険性を提示している。しかしそれだけではなく、虚像を拡散することで救える人がいるという利点も描くことで、両極端な感情がぶつかり合う。
たとえ偽りの記憶でも、結果的に遺族の精神的なやすらぎになるのであれば、あなたはどちらを選択するだろうか……という、究極の選択を強いられる作品でもあるのだ。
「正しさ」の定義、「モラル」とはいったい何なのか……普段、軽々しく口にする言葉の重さに改めて気づかされるだろう。
コナーの母親・シンシアを演じるエイミー・アダムスは、アカデミー賞で5度も助演女優賞にノミネートされながら、一度も受賞を果たしていない。本作で喪失感に打ちのめされ、亡き息子の幻影に執着していたシンシアが日常を取り戻していく姿を見事に演じきったエイミーが、6度目の正直で助演女優賞に選ばれたとしても違和感は全くない。
『ディア・エヴァン・ハンセン』
【出演】ベン・プラット/エイミー・アダムス/ジュリアン・ムーア/ケイトリン・デヴァー/アマンドラ・ステンバーグ/ニック・ドダニ/ダニー・ピノ/コルトン・ライアン
【監督】スティーヴン・チョボスキー
【公式サイト】deh-movie.jp
【公式Twitter】 @dehmovie_jp
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