DEENはなぜシティポップを歌うのか――R&B/AORと歩んだ28年
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「シティ・ミュージック冬の時代」に貫き続けた愛
2000年代は“渋谷系”のムーヴメントもひと段落し、シティポップのリバイバルも遠い先のこと。着うた市場では徐々にR&Bの隆盛も見られたものの、AORに通じる生演奏の比率が大きい“都会的な音楽”は、少なくとも2010年代前半までは、商業面では冬の時代を迎えることになる。
そうしたなか、ビーイングから離脱する2003年前後から、DEENの楽曲はアリーナロックとR&B路線を融合した、AORに通ずるグルーヴィなバンドサウンドが徐々に増えはじめる。アルバム『UTOPIA』(’03)および『ROAD CRUISIN’』(’04)はこの路線が結実し、以後の作風をも決定づけた、彼らの長い歴史の中でも指折りの名盤と言えよう。
この2作には、AORの影響を絶妙に昇華した楽曲が多数収められている。例えば、チャカ・カーン「What Cha’ Gonna Do for Me」に通じるフルートのフレーズが心地よい傑作ミディアム・グルーヴ「太陽と花びら」はその筆頭だ。また、ドゥービー・ブラザーズ「What a Fool Believes」の特徴的な音色のシンセやリズムを彷彿させる「南の風」も面白い。
上記のチャカ、ドゥービーの楽曲は、いずれも2010年代のヨット・ロック(Yacht Rock:日本国外でのAOR的音楽の総称)のリバイバルでひときわ評価が高まったものだが、既に2000年代前半時点でこれらの楽曲を参照していた彼らの慧眼は特筆すべきものがある。
また、代表曲のセルフカバー盤『DEEN The Best キセキ』(’05)でも、よりグルーヴを強調したアップデートが図られている。その中でも、細かいカッティングや裏拍で入るブラスが耳を引くアレンジに生まれ変わった「瞳そらさないで」は特に分かりやすい例だ。
“同志”paris matchとの邂逅~カバーの選曲に滲む矜持
このようにDEENがAORに邁進した2000年代に、彼らと同じく時代の追い風のないなかで我が道を進んだユニットがいる。UKソフィスティ・ポップに通じる素晴らしい作品を連発していたparis matchだ。
DEENが2009年以降、paris matchおよびそのボーカル・ミズノマリを幾度となく楽曲にフィーチャーしている点からも、彼らの“都会的な音楽”への熱意がうかがえる。なかでも、ロバータ・フラックやディアンジェロのヴァージョンで知られるR&Bの名曲「Feel Like Makin’ Love」のカバーは、池森・ミズノ両者の歌唱が冴え渡り、あたかも彼らの矜持が結実したような逸品だ。
ちなみにカバーという観点では、DEENは今年のシティポップカバーアルバムに先んじて、海外の80年代楽曲を中心に取り上げた『君がいる夏』(’14)を発表している。この中で、AORファンにはお馴染みのランディ・ヴァンウォーマーの隠れた名曲「アメリカン・モーニング(原題:Just When I Needed You Most)」をカバーしているのも見逃せないところだ。
必然の“シティポップ・イヤー”
デビュー以来、DEENはR&BやAORといったグルーヴィな音楽性を志向し続けてきた。タイアップやヒットに恵まれたビーイング時代のシングルA面こそ、そうしたテイストはごく控えめなものだったが、その取り組みが間違いなく本気であったことは、ここまでお付き合いいただいた読者の方にはご理解頂けたかと思う。
1990年代のビーイングのバンド/ユニットは会社主導で企画的に結成されたものが多く、それゆえ演者自身が望む音楽性を表出できないまま解散、あるいはフェードアウトしていった事例は枚挙にいとまがない。多分に漏れず、DEENも「このまま君だけを奪い去りたい」のリリースに際し急遽組まれたバンドではあったものの、現在もデビュー以来の池森・山根の2名を軸に、一貫して同じ音楽性を追求し続けているのは大変稀有なことであろう。また、ビーイング期の「プロデューサー主導の徹底した分業体制」、離脱以降の「自身がイニシアティヴを持ち、バンド内で多くの工程を完結させる環境」のいずれにおいても高品質な作品を安定して生み出し続けた点も、R&BやAORというジャンルではあまり例の無い、重要な達成だと思われる。
彼らの“シティポップ・イヤー”は、決して日和見的に生まれたものなどではない。28年間貫いたR&B/AORへの想いが時代の要請と噛み合った、必然的な帰結だったのだ。
DEEN Winter Special Album『シュプール』12.22 Release
https://www.deen.gr.jp/
ビーイングを出自に持つ音楽家たちを“グルーヴ”やアレンジの観点から語る本短期連載。次回(ビーイング編 最終回:12月下旬公開予定)は、ビーイングのみならず日本の90年代ポップミュージック・シーンを代表するヴォーカリストが、そのイメージと裏腹に取り入れた冒険的な楽曲アレンジについて検証する予定だ。また、その流れでビーイングという革新的な音楽ファクトリーそのものについても、多面的な分析を試みたいと思う。
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こちらのSpotifyプレイリストでは、今回取り上げたものも含め、DEENのシティポップ~AOR的な楽曲をまとめているので、ぜひ合わせて参照いただきたい。
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