『チコちゃんに叱られる!』意図が不明すぎる「第2の川合俊一オーディション」を開催!?
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『チコちゃん』で久々のヒット! 黒ピアノを世界の主流にしたのは日本の湿気だった
11月19日放送『チコちゃんに叱られる!』(NHK)で取り扱ったテーマがなかなか良かった。この日最初に出題された質問は、「ピアノってなんで黒いの?」である。同番組は2019年に「ピアノの鍵盤はなんで白と黒なの?」(正解は「お金持ちの見栄のせい」)というテーマを取り扱っているが、今回はピアノの“中”ではなく“ガワ”についての疑問だ。
はて、汚れが目立たないようにだろうか? どの家の家具にも合うように? 舞台映えするから? 黒の塗料が余っていたから? ピアニストが主役なのでピアノがあまり目立ないように? というか、そもそもピアノは黒とは限らない。ジョン・レノンは白いピアノを弾いていたし、八神純子のピアノも白かった。YOSHIKIはスケルトンのKAWAI製クリスタルグランドピアノを弾いている。都庁に置いてある草間彌生デザインのピアノはめちゃめちゃカラフルだ。
とにかく、チコちゃんが発表した正解は「日本がジメジメしているから」であった。海外のピアノも基本的には黒が多いのに、これは一体どういうこと?
ピアノは今から300年ほど前にイタリアで誕生。イタリアの楽器製作者、バルトロメオ・クリストフォリが1709年に現在のピアノの原型となる楽器を発明したのが始まりである(年代については諸説あり)。意外にも、結構新しい楽器なのに驚く。また、この頃のピアノは素材の木目がそのまま見えていたそう。初期のピアノの多くは、黒ではなく木目を生かした茶色系だったのだ。そういえば、映画『アマデウス』でモーツァルトが弾くピアノもこういうデザインだった。見ると、思わずニスを塗りたくなるルックス。パッと見、オルガンっぽく思えなくもない。
木目が主流だったピアノの色が現在のように黒くなったきっかけは、日本のピアノ作りにある。日本にピアノが伝わったのは江戸時代。鎖国中でも例外的に貿易を続けていたオランダの陸軍医・シーボルトの手によって持ち込まれたとされている。江戸時代にピアノがあったというのも驚き。実は、シーボルトが実際に持ち込んだピアノは現存しており、そのピアノはやはり木目調だ。その後、1900年になると日本でもピアノの生産が始まるが、その過程で現在の黒いピアノは誕生することになった。
ここで唐突に始まるは、「チコっとリサイタル ~黒いピアノの秘密~」。あの秋川雅史が、ピアノ演奏をバックに「イタリアで生まれし 木目のピアノ 海を渡って日本へ 彼の体を黒く染めたのは 日本の漆♪」と熱唱したのだ。まるで、「私のピアノの前で泣かないでください~」と言わんばかりに……。
日本はヨーロッパに比べて湿気が多く、ジメジメした気候をしている。ピアノの木材が湿気を吸ってしまうと変形し、音色にまで影響が出るので、日本ではピアノに湿気対策を施す必要があった。その対策法に選ばれたのは、漆(うるし)。木の樹液を原料とする天然の塗料が漆で、食器や家具などを湿気から守るため古くは縄文時代から使われていた。塗料としては、顔料を混ぜることで黒や赤にして使うのが一般的である。つまり、ピアノの外側を黒い漆でコーティングして湿気から守ろうとしたのだ。ピアノを黒くしたのは日本だったなんて、衝撃の事実! さすが、改良するのが得意な日本。漆器は英語で「Japan」と言うが、まさに日本の技術力だ。湿気が多いと音に影響するので、音を良くするためにも好判断だった。
でも、漆を塗るだけなら黒ではなく赤い漆でもよかったはず。事実、エルトン・ジョンが愛用するのは赤いピアノだ。まあ、赤色はステージでも目立ちすぎるが……。実は、日本が黒い漆を選んだ理由がもう1つ存在する。ここで始まったのは、またしても秋川雅史のリサイタルだ。
「漆で塗られた黒ピアノ 気品漂う そのピアノ 彼らが使われる その最たる場所は 学校~♪」
ピアノが黒になった理由を歌で説明する秋川だが、美声に気を取られて内容が全然入ってこない。詳しく説明すると、初期のピアノは非常に高価だったため、一般家庭にはほとんど置かれなかった。ピアノが設置されたのは、主に学校。現在、一般的な西洋音階はドレミファソラシドだが、西洋音階が入ってくる以前の日本では「ドレミ ソラ ド」という音階が使われていた。日本が海外の先進諸国と付き合っていく中、この西洋音階を身に着けるため、学校では先生の弾くピアノの伴奏と共に西洋音階の歌を歌う教育が行われたのだ。日本では教育目的で使われることから、ピアノにはより格式の高い「黒」という色が塗られたと考えられる。確かに、黒色だと高級車のイメージになり得るが、赤だとファミリアを思い浮かべてしまう。
このような経緯で黒く塗られたピアノだが、同時にメリットも生まれた。黒く塗られる前のピアノは木目が露出しているため、模様がつながるよう表面に使う素材を厳選する手間がかかっていた。ところが、ピアノを黒く塗れば木目は見えない。これにより、表面の素材を選定する手間が省け、ピアノの生産効率が上がり、コストダウンが可能となったのだ。要するに、表面を黒く塗ることでピアノの大量生産につながったということ。漆塗りは合理的だった。だから現在、木目調のピアノは高いのか……。
この後、日本のピアノを取り巻く環境は劇的に変化する。戦後に日本の教育方針は大きく変わり、小学校の音楽の授業で生徒にも鍵盤楽器を演奏することが求められるようになった。これを受け、家庭でも練習できるようにとピアノの需要は急激に拡大。以降、日本におけるピアノの普及率は世界トップクラスとなった。例えば、学校内の合唱コンクールでピアノ伴奏ができる生徒が各クラスに1人はいるという状況は、日本以外の国だとまず考えられない。ピアノを黒くし、生産効率が上がったこともあり、1965年には日本のピアノメーカーのヤマハがピアノ生産台数で世界一を記録した。実は、日本は音楽先進国なのだ。
世界一のピアノ生産国となった日本のピアノは、海外にもたくさん輸出された。同時に、ピアノを黒くする利点も海外で注目されるようになる。木目を隠すことによる生産効率の向上に加え、塗装するのでキズがついても修理しやすいなど、多くの利点が世界的に認識されたのだ。日本の黒いピアノが認められたことにより、海外も日本の技術をマネて黒いピアノを生産するようになる。要するに、日本のおかげで木目調よりも黒いピアノがスタンダードになったのだ。今や、ヨーロッパにおいても木目調ピアノはオプション的な選択肢だ。まあ、ピアノが黒い理由はヨーロッパ人もきっと知らないだろうが……。
今回のピアノのテーマ、なかなかよかった。この番組における久々のヒットでは? 正解が「日本がジメジメしているから」では赤いピアノもOKとなるし、格調重視を正解にしたほうが適当だった気もするが、何にせよ興味深い情報だ。
ちなみに、今田耕司は「戦場のメリークリスマス」を弾きたいがためにマスターする前からピアノを購入したらしい。ある程度歳のいった日本人男性がピアノを始める際、その理由として課題曲にしがちなのはやはり「戦メリ」である。
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