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『MIB』の世界がついに到来!? 京大研究チームが光を使って記憶を消す技術開発

『MIB』の世界がついに到来!? 京大研究チームが光を使って記憶を消す技術開発の画像1

 97年の米SFアクションコメディ映画「メン・イン・ブラック」では、ニューラライザーという小さな棒状のピカッと光る装置を使い、宇宙人を目撃した一般市民の記憶を消去する。京都大学を中心とした研究チームが、このSF映画のように光を使って記憶を消す技術を開発した。

 記憶は海馬で短期的に保存された後、皮質で長期的に保存される。この現象は「記憶の固定化」と呼ばれるが、それを担う細胞活動は完全には解明されていなかった。

 記憶の細胞単位の現象として、細胞間の神経活動の伝達効率が上昇するシナプス長期増強(LTP)が知られており、LTPが誘導された細胞で記憶が形成されていると考えられている。

 したがって、記憶の固定化の過程でLTPが誘導される細胞と時間を調べることで、記憶がいつ、どの細胞に保持されているかが分かるが、これまでにそれを調べる技術はなかった。

 今回の研究では、LTPがいつどこで起きているかを検出する技術を開発し、それを用いて記憶の固定化中にLTPが誘導される細胞と、その時間枠を明らかにすることを目的として始まった。

 シナプスは、神経情報を出力する側と入力される側の間に発達した、情報伝達のための接触構造を言う。LTPではシナプス結合強度が増加し、信号伝達が向上する。このLTPによる神経細胞間の信号伝達の持続的な向上が、記憶の細胞レベルでの現象であると考えられている。

 研究では、まずイソギンチャク由来の光増感蛍光タンパク質を使って、シナプスのタンパク質を光照射により不活化することを試みた。このタンパク質は光を照射すると、活性酸素を放出し周囲のタンパク質を不活化する。この性質を利用すると、記憶を起こしたシナプスのみを消すことができた。

 次に、このタンパク質を脳の様々な部位に導入すると、光を使って記憶を消すことができるようになった。これまでにも薬剤を使ってLTPを消去する手法はあったが、光を使うこの技術により、狙った場所・時間でだけLTPを消去することが初めて可能となった。

 さらに、学習の直後に記憶ができるシナプスや、その後の睡眠中に記憶ができるシナプス、次の日の睡眠中に記憶ができるシナプス、次の日の睡眠中に記憶ができるシナプスが、脳の異なった部位にそれぞれ存在することがわかった。

 研究グループは、「技術は記憶に関与する多くの脳機能を細胞レベルで解明することができる可能性を持っている。LTPに関わるシナプスの異常は発達障害、外傷後ストレス障害 (PTSD)、認知症、アルツハイマー病といった記憶 ・学習障害だけではなく、統合失調症やうつ病の発症にも関与することが示唆されているため、研究で得られた知見がそれらの治療法に広くつながることも期待される」としている。

 この研究は、京都大学、理化学研究所、大阪大学産などによって行われ、研究成果は21年11月12日に、国際学術誌「Science」のオンライン版に掲載された。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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Twitter:@tohrusuzuki

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最終更新:2021/11/25 06:00
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