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日刊サイゾー トップ > エンタメ  > 「のぞき見」近代文学者はスマホ時代を予見!

江戸川乱歩、谷崎潤一郎……「のぞき見」に執着した近代文学者はスマホ時代を予見!

視ることによって変態・病・犯罪を暴く

──『孤独な窃視者の夢想』では乱歩や朔太郎、谷崎といった大正デカダンスの作家たちの想像力を「正常―変態」「健康―病」「法的規範―犯罪」の概念軸が重なるものとして整理されていますが、これが視覚装置というテクノロジーの台頭とともに登場してきた――言い換えれば、視ることによって変態を、病を、犯罪を暴くという構造になっている、ということでしょうか?

谷川 前段から説明すると、1980年代くらいに「大正ロマン」「大正デカダンス」という言葉が出てきたわけです。大正は明治と昭和のはざまにあって、芸術的に豊饒な時代だった。「デカダンス」という問題はヨーロッパの世紀末文学のテーマで、もともとはローマ帝国が没落するときに出てきた言葉です。それが芸術の様式が乱れて文体のバランスが取れないとか、ついには崩壊へと向かいつつある人間存在の状態や気分を指す言葉になった。日本ではそれが大正期の芸術に当てはめられた。では、大正デカダンスとは何か──これを具体的に論じている人があまりいない。

 そこで私が取り組んだわけだけれども、「変態」「病」「犯罪」の3つの概念で論じられるだろう、と。

 「変態」という言葉は、例えば明治初期にすでに「変態百人一首」というものがあった。しかし、それは「普通とは違った」という意味です。西洋から生物学が入ってきてからは昆虫の「変態」という概念において用いられるようになり、さらにその後、医学者、哲学者が体の異常や奇形に対して使うようになった。そして、明治の後半からは今のような性的な意味を帯びるようになった。その問題を文学作品で最初に使ったのは、おそらく森鴎外です。彼はドイツに留学していて、ドイツ語が堪能で医学書にも精通していた。英文学の漱石とドイツ文学・哲学の鴎外は、同時代の西洋近代の概念を日本に輸入して植えつけた両巨頭です。

 「病」とは何か。あの当時は結核によって何人もの文学者や画家が亡くなっています。しかし、文学作品の中で「病」というときは神経衰弱を指す──もっとも、「神経衰弱」とはいったい何という病名の訳語なのかがいまだ判然としないのだけれども。

 「犯罪」は、「新青年」という雑誌ができて探偵小説が翻訳・創作される中で文学の大きな流れになった。

 そして、先ほど言ったようなさまざまな視覚装置を用いて「変態」「病」「犯罪」と「視ること」とを重ね合わせた作品を書いたのが乱歩です。

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