容赦なき都会サバイバル映画『ずっと独身でいるつもり?』の魅力
#田中みな実
田中みな実が「2歳差」を許容しなかった理由
本作の主人公は、田中みな実にとっての間違いなく当たり役だ。彼女が持つ元々の雰囲気、ありていに言えば「困り顔」にも見える表情が、悩みに悩む「本音が言えない」女性にベストマッチだったのだ。
その田中みな実は、最初の設定では役が撮影時の実年齢と同じ34歳だったところを、原作通りに「36歳」にしたいと提案したのだという。その理由について、田中みな実はこのように話している。
「かつては34歳も36歳も大差ないと思っていたけど、いざ自分がそういう年齢に近づくと、この2歳の差は大きい」
「いわゆるアラフォーのくくりに差し掛かり、付き合っている年下の男に言いたいことすら言えず、私が我慢すればいい、私が飲み込めば丸く収まると自制する知恵ばかり身に付いてしまった。無鉄砲だった10代や20代とは訳が違う」
「例えば子どもを産むことについても、40歳手前で出産はできても、育てるには相当な体力を要するし……などと考えると、この2歳の差を書き換えられるのは違うなと思った」
田中みな実の、この女性の年齢という不可逆な現実を見据え、かつ原作の精神性を拾い上げた提案は、とても誠実なものだ。それでも「実際2歳差なんて大した違いじゃないでしょ」と思われるかもしれないが、本編では彼女の演じる役こそが、はっきりとセリフに出さなくても、彼女が言うような焦燥感を感じているのだろうと、同じような想いを抱えている36歳の女性はきっとこの世にいるのだろうと想像し、本当に胸が苦しくなったのだ。
田中みな実だけでなく、市川実和子、松村沙友理、徳永えりが演じる女性たちも、もはや「この世に本当にいる」としか思えない存在感だ。個人的に特に感情移入したのは市川実和子が演じる独身女性で、彼女が八方塞がりな現状を次々に目の当たりにし、彼女が抑えに抑えていた感情をとある形で「爆発」させるシーンでは「やめてくれ!もうこんなところを見せないでくれ!」と懇願してしまった(褒めている)。
ちなみに、本作はメインのスタッフに女性が多い。監督のふくだももこは、業界のジェンダーバランスを考えていくためにも、最近は意識的に女性のスタッフの方を起用するようにしていたそうで、今回はカメラマンの中村夏葉や美術デザインの佐久嶋依里が参加している。本作が極端なようでいてリアルな内容になったのは、現場で数々の女性の声があったおかげかもしれない。
ちなみに、ふくだももこ監督は本作の撮影の半年前に出産を経験している。その経験も、おそらくは劇中で徳永えりが演じる子持ちの女性の生活や、夫の「なんちゃってイクメン」ぶりの生々しさに生かされていたのだろう。しかし、ふくだ監督自身は劇中の自分本意な夫をそこまで「悪」にはしたくなく、世の中にたくさんいる、男性中心社会の構造の中で必死に生きていて、妻や子どものことを顧みることができない人なんだろうと、彼自身を否定するのではなく、そういう社会構造に問題があるという目線で描くようにしたのだという。現代の女性の生き辛さを描きながらも、過度に男性そのものを貶めるという意図はない、フラットな視点があることも、本作の長所だろう。
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