Netflix『ディア・ライフ』は「歌って踊らない」──現代インド映画の見方が変わる!?
#映画 #インド #Netflix
現代インドの“強い”女性像と、いまだ根強い保守的な価値観とのはざまで──『ディア・ライフ』(2016)
『ディア・ライフ』(Netflix視聴ページ)
<ストーリー>
ボリウッドで映画や音楽アーティストのプロモーションビデオ制作の仕事をしているケイラは、親や親戚と絶縁関係ではないまでも、距離がある状態。恋人がいながらも浮気をしてしまったり、好きな男性を自分の意志に反して遠ざけてしまい、目の前で別の男性にアプローチをかけたりしてしまう。常にイライラしている状態が続いているようで、空回りし続けてしまっているのだ。そんな状況の中で出会ったセラピストのカーン。彼のセラピーを半信半疑で受けるケイラだが、彼女の抱えていたものが徐々に浮き彫りになっていくのだった……。
<解説>
インドは女性蔑視が問題視されてきた国だ。女性は男性の所有物のように扱われ、シングルマザーや自分の意志を主張する女性は、周りから白い目で見られるような状態が続いている。特に保守的な地域などでは、いまだにそういった概念が蔓延っている。
2021年1月に日本でも公開された『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の中でも、DV夫から逃れるため家を出たのにも関わらず、賃貸の契約ができないことが描かれていたように、社会が女性の独立に対して負のイメージを持っているのだ。
ところが、近年のグローバル化によって、インド国内の状況もかなり変化してきているのも事実。正直、世界に向けたプロパガンダ的とも言えなくはないが、女性監督を積極的に起用することや、女性を主人公とした作品が多く制作されるようになってきているのは、良い流れと言っていいだろう。
『ディア・ライフ』の主演を務めるアーリヤー・バットは、ボリウッドの若手女優の中でも人気が高く、“強い”女性のイメージを定着させた立役者である。
『ガリーボーイ』(2019)では、浮気相手に瓶で殴りかかって警察沙汰になるシーンがあったり、2021年7月にインドで公開された『Gangubai Kathiawadi』(日本公開未定)ではインドのマフィアクィーンを演じ、男性を蹴り飛ばすシーンが話題になるなど、一昔前のインドでは考えられない女性像を体現している。
同作においてアーリヤーが演じる主人公・ケイラは、ボリウッドで働くカメラマン。同性愛や自由な恋愛など、リベラルな映画業界の中にいるはずの彼女を苦しめているのは、いまだ根強く残る保守的な価値観だ。
ケイラは、好きな男性の前では素直になれず、そのイラ立ちを別の男性と関係を持つことで紛らわそうとしてしまうなど、破天荒で情緒不安定なキャラクターではある。彼女の抱えている潜在的なトラウマや対人問題そのものが、インドの女性が抱えている男性優位主義的な考え方への苦しみを具現化しているとも捉えられる。同じ女性である母親も、そういった環境の中でインドが抱えている大きな問題が見えなくなっているのだ。
インドという国に残る封建的な価値観が個人に与える影響を、女性主人公・ケイラを通して訴えている。とにかく多くの人に観てもらいたい傑作だ。
そんな主人公を助けるセラピスト役を演じたシャー・ルク・カーンは、ボリウッドにおいてサルマン・カーン、アーミル・カーンに並ぶ、3大カーンのひとり。彼の家は観光地になるほど、ボリウッドのスターの代表的人物だ。同作においては、作品が描いているテーマ性を尊重するためにあえて引いた位置で存在を抑えながらも、重要な役割を果たしている。
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普段は大げさでジャッキー・チェンのようなオーバーリアクションをするシャー・ルクだけに、同作での落ち着いた演技というのもめずらしく、彼のファンにもオススメの作品だ。
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