B’zとソウル/ファンク/AORの蜜月――『FRIENDS』シリーズと『The 7th Blues』から紐解く
#B'z #TOMC
B’zと小沢健二・角松敏生のミッシングリンク
『The 7th Blues』以降のB’zは、その音楽的成果を引き継いだ「ねがい」や「love me, I love you」(’95)をリリースしつつも、徐々にハードロック的な志向を強めていき、AC/DCを思わせる96年の全英詞シングル「Real Thing Shakes」で一つの頂点を迎える。翌年にはグランジを意識したとされる冒険作「FIREBALL」を発表することになるが、『FRIENDSⅡ』はこの振り切った2作の狭間に当たる、96年の11月末にリリースされた。
もちろん本作は『FRIENDS』の続編に当たるものだが、EPで丸々一つのストーリーを表した前作に対し、『FRIENDSⅡ』はオムニバス形式であり、稲葉の作詞家としての個性・巧みさが光る多様なシチュエーションが描かれている。そして憂いが滲む恋模様が多くを占める内容は、フェンダーローズやフルートをはじめとした生楽器をふんだんに取り入れたサウンドも相まって、『FRIENDS』よりもむしろ『The 7th Blues』の空気感に近いとも言えよう。
長らくB’zに携わってきた明石昌夫に代わり、本作では新たなベーシストが2名参加している。一人は、1990年代のソウル×J-POPのひとつの頂点である小沢健二『LIFE』(’94)でもベースを務めた中村“キタロー”幸司。もう一人は、山下達郎と並び海外のシティポップ・リバイバルで熱い注目を集める日本産ブギーのマエストロ・角松敏生の作品でも重要な役割を担っていた青木智仁だ。
中村“キタロー”幸司の参加曲では、恐らく本作中で最もファンの支持を集める「傷心」をやはり特筆すべきだろう。ワウギターのイントロに導かれ、生ピアノ・エレピアノが交錯し、ストリングスやフルートが舞うバッキングは、先述の「THE BORDER」から時代を一歩進めてクロスオーバー/フュージョン的な要素も色濃く垣間見える。B’zのソウル/ファンク/AOR路線の最高到達点と呼びたい傑作だ。当時SING LIKE TALKINGのサポートも務めていた大ベテラン、斎藤ノブのパーカッションも本曲の強いグルーヴに多大な寄与を果たしている。この「傷心」もテレビ出演以外の場では未演奏の楽曲であり、来たる〈B’z presents LIVE FRIENDS〉に日々期待を強めているファンも多いことだろう。
青木智仁の参加曲では「BABY MOON」を推したい。B’zとしては非常に珍しいボサノヴァのリズムを下敷きに、フェンダーローズと松本のクリーントーンが終始漂う抑制されたアレンジは、「傷心」とは別の角度からソウル/ファンク/AOR路線の粋を極めた楽曲と言えるだろう。
『FRIENDSⅡ』以降、B’z作品におけるソウル/ファンク/AOR的表現は、個々の楽曲においては(稲葉・松本の各ソロ活動含め)時折見られたものの、EP/アルバム全体でそうしたテイストの強い作品は長らくリリースされてこなかった。それゆえに『FRIENDS Ⅲ』の今冬リリースは、特に90年代以来のB’zファンにはたまらないニュースになったと思われる。近年にも「Queen Of The Night」(’17)や「WOLF」(’19)といった楽曲で近い音楽性をチラつかせていた彼らのこと、必ずやファンの想像を超える作品を生み出してくれることを期待したい。
ビーイングを出自に持つ音楽家たちを“グルーヴ”やアレンジの観点から語る本短期連載。次回(12月初旬)は、結成最初期からR&B方面の楽曲を発表し、キャリア中期以降にはシティポップ的な音楽性をひときわ深めていった、とあるベテランバンドについてお送りする予定だ。
◆
前編・後編で紹介しきれない楽曲を含め、B’zのソウル/ファンク/AOR路線をまとめたプレイリストをSpotifyに作成したので、ぜひ新たなB’zの魅力の発見にご活用いただきたい。
*FREE SOUL:音楽プロデューサー・評論家である橋本徹氏による、1970年代ソウル周辺の楽曲の中から1990年代以降の感性に沿ったグルーヴィー/メロウな楽曲に光を当てていく、平成初頭から日本国内で広がっていったムーヴメントの総称。
本プレイリストはB’z・橋本徹氏の双方に非公式のものであり、一般的に知られるB’zの音楽性とは真逆に当たる(と思われがちな)この運動の名称をあえて冠した、ブートレグ的スタンスのものであることをご留意いただきたい。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事