ポスト新型コロナで“とんでもない観光ブーム”到来?地方都市は備えあるか
#地方創生 #小笠原伸 #新しいニッポンの地方創生
急激な揺り戻しに観光地や旅行会社は耐えられない!?
――この1年半、業績悪化を理由に人員整理を行った観光事業者は少なくありません。大手旅行会社JTBはグループ人員6500人削減を目指し、近畿日本ツーリストも従業員約7000人の3分の1を削減すると発表しています。人を減らした矢先にブームが来たら手が足りなくなりそうですね。
小笠原 そうなんです。ブームが起きてからではスタッフの確保が間に合いません。先を見越すなら、今の時期に採用してトレーニングを積んでおかなければならない。もちろんちゃんと準備をしている観光関係者もいて、星野リゾートは「人員削減はしない」と打ち出していました。星野佳路代表がウェブメディアのインタビューで「大事なのは、コロナが終わった後の回復のスピードだ。これを速めるためには人材を維持しておくことが欠かせない」と明言していたくらいです。これからやってくるブームにも問題なく対応できるでしょう。一方で人員削減してしまったところは大変になるはずです。
――前提として、コロナ禍に突入する前の地方創生文脈における観光には、どんな課題があったのでしょう?
小笠原 地方に観光客を呼ぼう、たとえば宿泊者数を増やそうと思ったときにいちばん手っ取り早いのは、東京のホテルチェーンを誘致してビジネスホテルなどを運営してもらうことです。でもそれだと地元資本の運営会社ではないので、宿泊事業の売上を地元に残してゆくのはなかなかに難しい。「地域で雇用が増える」といってもフロント、厨房、リネンや清掃くらいで限られた効果です。観光客が増えることと地元が経済的に潤うのは別次元の話なんです。地方創生のためにと地域が頑張ってその結果として結局東京にカネが流れることにもなりかねないわけで、そこをもっとちゃんと考えて取り組みましょう、というのが現在の地方創生が本質的には目指しているところです。
ーー「本質的には」ということは、実態は程遠かったんでしょうか。
小笠原 そうです。国土交通省や経済産業省はかなり以前から「ベンチャーマインドを持って地方で独自の食いぶちをつくっていきましょう」と繰り返し言い続けてきました。ですが、地元の現場にいる方々からすれば、自分たちができる範囲のことをやるので精一杯の部分がある。これまでは仕方ない側面もあったと見ています。そしてコロナ禍で観光業が完全に停止したことで、結果的にですがその状況を直視しなくて済む状態が続きました。でもこれからやってくるポスト・コロナの状況では、向き合わざるを得なくなりますね。
――もともと課題解決に向けて動けていなかったところが、1年余を経て急に観光需要が増加しても新たな対策を用意できている可能性は低そうに思います。
小笠原 その通りです。「コロナで動けないから何もしない」と静観していた地域と、「この1年半でさまざまな準備をしました」という地域では大きな差が出るでしょう。それはそのまま「観光で稼ぐ」という意味についての理解度の差です。コロナ禍の最中にどれだけ準備できていたかは、地方創生の中のカテゴリとしての観光のポイントになると思います。
――そこで言う「準備」とは、具体的にはどういうものですか?
小笠原 地元商店がeコマースや電子決済に対応するなんていうのは最低ラインですよね。コロナ禍を経ているのにまだ「現金のみです」ってやってたら、まさにAirペイのテレビCMみたいに「じゃあいいですぅ!」と目の前でお客さんを逃してしまう。
それから大きいところでは、地域の皆さんが出資して宿泊施設や温浴施設を設置、整備するという取り組みが出てきたり、さらにはユニバーサルデザインの観点で街の整備を進めるといった施策も考えられます。障害を持った方や高齢者、子供連れの家族、外国人観光客など、どんな人が訪れても包摂できれば、より多くの人に観光を楽しんでもらえますよね。街歩きのルートの中に給水所とベンチがあるだけでも大きく違ってきます。「自販機を置いてます」だけではダメで、腰掛けて休める場所が町中に点々とあれば足腰が弱い方や体力が十分でない人でも楽しめるようになる。それはまさに客の少ない時期にこそ時間をかけて取り組めたはずなんですね。観光のトレンドはこれからどんどん変わっていきます。それに対応する準備は大丈夫ですか? と問いたいんです。
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