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「朝日は正しい、朝日こそ正義」という幻想
「渡辺部長が営業サイドからの要請を受けて、現場に、『広告の関係もあるし、こういう原稿を書いてくれないか』といった旨を口にすることもあった。多かれ少なかれ、どの新聞でも新商品紹介などはあるでしょうが、見ようによっては露骨な“ステマ記事”と捉えられかねず、正義感の強い記者には不評でした」(大阪経済部関係者)
その一人が竹岡記者だったというのだ。
さらに9月末から10月にかけてこんなことが起きたそうだ。
東京五輪担当の統括官を務め、経産省内で将来を嘱望されている官僚が、10月1日付で近畿経済産業局長に就任した。
彼が渡辺部長と長年の友人で、「彼について取材をしないのか」と渡辺が竹岡に迫ったという。
そのため、「権力者にすり寄るような取材をして記事を書けば、自分は記者ではなくなってしまう」と竹岡記者は悩んでいたそうだ。
10月4日に局長就任の記者会見が行われ、竹岡は出席して代表質問もしたのに、朝日だけは記事化した形跡がないそうである。
さらに、竹岡が書いたパナソニックの記事を巡って、渡辺との間でやり取りがあったという。
「パナ早期退職に 1千人超が応募」
竹岡の署名記事だ。
前日、パナの社長が組織再編などについて会見を行っている。
他紙は社長の言葉を前向きに取り上げているのに、竹岡の記事は対照的だ。
大広告主だから、パナから何かいってきたのか、渡辺部長は竹岡を叱責したそうだ。
そうして、トーンを修正するような記事が死んだ日に配られた竹岡の記事だった。
竹岡の死後、朝日の管理本部が大阪経済部員の聞き取り調査を開始した。
現段階では、渡辺に問題はなかったというのが会社側の位置づけだという。だが社内からも疑問の声が上がっているそうだ。
「朝日はこれまで報道機関として、例えば、十五年に過労の末に自殺した電通の高橋まつりさんの問題などを積極的に報じ、会社側の責任を追及してきました。竹岡氏の一件も、原因を究明し、変に隠蔽することなく、然るべき対応をするべきです」(別の大阪経済部関係者)
これを読んでいて、かつてノンフィクション作家の本田靖春が、読売新聞を私物化し、愚にもつかない自分の動向を新聞に掲載させていることに憤慨して、読売を辞めたことを思い出していた。
あのときも、本田の憤りに表立って賛同する者はいなかった。長い物には巻かれろ。新聞記者とて同じである。
黒川弘務東京高検検事長とコロナ禍の中で雀卓を囲んでいた記者の中に、産経と朝日の人間がいた。
産経も朝日も、多少の処分はしたのかもしれないが、その人間がどういうつもりで黒川と付き合い、どういう記事を書いていたのかを明らかにしなかった。
竹岡記者のいうように、「重要な事実を探るために、権力者に近づくことはありますし必要です。ですが、なぜその記事を載せるのか、読者に堂々と説明できる論理が何より大事だと思う」。権力者のポチになって甘い汁を吸おうというのなら、記者である必要はない。
他の新聞以上に朝日が叩かれるのは、これまで自らのことは振り返らず、相手を責め続けてきたからである。
朝日は正しい、朝日こそ正義と黄門様の印籠のように振りかざしていられた時代は確かにあった。
気が付いたら内部から腐敗し、周囲は敵だらけになり、なすすべもなくなってきているのが現在の朝日の姿である。
死者に鞭打つ気はないが、竹岡記者が本田靖春のように、朝日を辞めて、報道とは何か、新聞記者とは何かを追求する生き方を考えてもよかったのではないか。
朝日新聞を有難いと思うのは、朝日にいる人間だけである。外に出れば朝日なんてちっぽけなものだとわかる。
私は五輪開幕前に朝日の夕刊を止めた。そろそろ朝刊も止めようかと考えている。(文中敬称略)
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