波乱万丈の人生を「魂の叫び」で体現する映画『リスペクト』の魅力
#映画
苦しさを歌へと昇華し、社会にエンパワーメントを与える
だが、そんな風に男性から抑圧されるばかりで黙っているわけがない。何しろ、劇中のアレサはその悔しさや苦しささえも魂の叫びとして、「歌へと昇華」しているように思えるのだから。
例えば、劇中で披露される「Ain’t No Way」の歌詞は、歌手としてのアレサを異常なまでにコントロールしようとし、暴力もまでをも振るったマネージャーであり夫に向けた、アレサの心情を映し出したかのように聞こえる。「Think」の歌詞も男女間の問題を扱っていて、客席にいる彼に直接的に放ったかのようでもあった。
そして、アレサは歌手というだけでなく、女性としての真の自由を求め、社会的な問題に対して戦っていた人物でもあることも重要だ。人種差別に対する公民権運動の第一人者マーティン・ルーサー・キング・ジュニアとの関わりも描かれているし、ブラックパワーの活動家であるアンジェラ・デイヴィスを支持する様も映し出されるのだ。
本作のタイトルにもなっている、オーティス・レディングの楽曲を女性目線でカバーした「Respect」は男女のラブソングという枠に止まらず、人種や男女の平等という社会的なメッセージを込めた歌にもなり、アレサは女性解放運動のヒロインにもなっていく。アレサの歌や言動を、現代のフェミニズムや、LGBTQ+の活動、#MeToo運動につながるものとしてみることもできるだろう。本作の爽快感は、歌をもってアレサ自身の波乱万丈の人生を肯定するだけでなく、社会で抑圧されている全ての人々へのエンパワーメントになっていることも大きな理由だ。
そしてアレサ史上最大のセールスを記録したアルバムのタイトルにもなった「Amazing Grace」は古い賛美歌のカバーであり、日本人であっても聞いたことがあるはずの有名なナンバーだ。この曲を、アレサがどのような想いで歌っていたのかを、歌詞を踏まえながら考えて聴いてほしい。これまでの彼女の人生を見てきたからこその、感動もあるだろうから。
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本作『リスペクト』にもっとも印象が近い映画は、ジュディ・ガーランドの伝記映画『ジュディ 虹の彼方に』(2019)ではないだろうか。こちらは、『オズの魔法使』(1939)に出演した彼女が幼少期から許し難い抑圧や搾取をされていたことがそれとなく示され、それと呼応するように大人になってからの姿と共に、当時のゲイたちのアイコンとなり、彼らにとっての救いとなったことも描かれていた。子どもの時から波乱万丈であり、後に公民権運動に関わり社会へエンパワーメントを与えたアレサ・フランクリンの人生と重なるところがあったのだ。
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