波乱万丈の人生を「魂の叫び」で体現する映画『リスペクト』の魅力
#映画
2021年11月5日より映画『リスペクト』が公開されている。本作は、雑誌ローリング・ストーンの「史上最も偉大な100人のシンガー」にて堂々の第1位に選ばれたアレサ・フランクリンの半生を描いた伝記映画だ。
主演を務めたのは、生前のアレサ本人から指名されたジェニファー・ハドソン。映画デビュー作『ドリームガールズ』(2006)でアカデミー賞助演女優賞を受賞する快挙を成し遂げ、歌手としてもグラミー賞を制したジェニファーが、今回はアレサの生写しとも言える圧巻の歌声と演技力を見せている。それだけでも、音響の良い劇場で堪能する価値があるだろう。
詳しくは後述するが、本作はアレサ自身が送る波乱万丈の人生が、劇中で披露される「魂の叫び」のような歌(歌詞)とシンクロしていることが重要であり、劇映画でしか成し得ない感動がある秀作に仕上がっていた。具体的な魅力を記していこう。
男たちに抑圧されていく苦しさ
物語の始まりは1952年、パーティや教会の礼拝で歌うアレサ・フランクリンは、10歳にして歌で聴く者すべての心を虜にする天才少女と讃えられていた。このオープニングだけだと、彼女の人生はこの後も幸せと成功が約束されたものと思われるかもしれない。
だが、アレサは10代で2度の出産を経験している。劇中では性描写そのものはなく、前後のシーンで「それとなくわかる」程度に示されており、それ自体を過度に悲劇的なものとして描くわけでもない。だが(だからこそ)、幼い子どもであった当時の彼女が妊娠をした事実を示す画はショッキングだ。
さらに、アレサは19歳の時に結婚したマネージャーとの間にも息子をもうけるのだが、その夫の態度はアレサの人気が高まると共に威圧的になっていき、暴力さえ振るうようになる。中盤のエレベーターに共に乗り込むシーンで、「夫の暴力性が隠されたようとしていた」ことを示すような演出があり、彼女が抑圧されてきた環境がより深刻なものとして映る。
しかも、アレサの父親は女性関係にルーズで、ピアニストでゴスペル歌手でもあった母親はアレサが6歳の時に家を出てしまう。その後も父親はアレサに独善的な態度を取っていき、彼もまた暴力を振るう。アレサを責めるばかりで、自分の非を認めようとはしないし、娘を理解しようと歩み寄るようにはとても思えない。
端的に言って、アレサは最低な男性たちに精神的にも物理的にも抑圧される人生を送っていたとも言える。歌手としてデビューをしても全くヒット曲に恵まれなかった(だからこそ夫や父とより対立する)若き日の苦悩も描かれており、その人生が順風満帆でないどころか、逆風が吹き荒れていたことが痛烈に伝わる内容でもあったのだ。
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